色のお話:最古の色、土色、肌色系
土色系、肌色系と書きましたが、今回の茶色系のグループには、肌色の素が含まれています。肌の色をミックスするときに元にすると使いやすい色です。肌色って何色だろうって考えたことありませんか?子供たちに聞くと本当にいろいろな色を作り出してきます。この色が同じ色という色も人それぞれ違ったりもします。人の肌は本当に微妙な上、人それぞれ、人種の違い、生活の違いなどなど、本当に様々で、その上に光種類の違いや当たり方の違いでまた変わってきますよね。本当に難しいけど、それがまた面白いということです。
ヴァンダイク・ブラウン
ヴァンダイク・ブラウンという名前の由来は、バロック期のフランドル出身の画家アンソニー・ヴァン・ダイクが初めて使った色という事からきていますが、本来はピーテル・パウル・ルーベンスがこの顔料を使った先駆者でした。アンソニー・ヴァン・ダイクはルーベンスの弟子で、この顔料を使う事が必要であると師匠から教わった事でしょう。
ヴァンダイク・ブラウンは、その頃には全く違う名前で呼ばれていました。それは、カッセル・アースやケルン・アンバーという名前で、その由来はこの顔料がドイツのケルン地区近辺で採掘されたからでした。この色は基本的にはロー・アンバーなのですが、褐炭の含有量が非常に多い顔料です。褐炭とは、茶色の石炭のことです。ルーベンスとアンソニー・ヴァン・ダイクによって使われたこのヴァンダイク・ブラウンは、時間とともに認められました。しかし、残念なことに顔料は品質にばらつきがあり、褐炭の部分が品質を下げる傾向になりました。信用のおけない絵の具屋が、アスファルトなどに使われる瀝青を上質のカッセル・アースの代わりに使ったことでさらなる問題になりました。この色はとても人気のあった色だったのですが、19世紀には信頼ができない色と評判が落ちました。そして暗いブラウンの流行が終わり、この色の販売も落ちてしまいました。ヴァンダイク・ブラウンの色は、その人気の頂点を過ぎてしまいましたが、アーティストが暗いブラウンを好むことから、無くなってしまったわけではありませんでした。バーント・アンバーが基本の暗いブラウンですが、その他の暗いブラウンで温かみの違いや透明度の違いのある絵の具は有益でした。
ヴァンダイク・ブラウンは、現代のニーズに適応しているのですが、初めの顔料にあったたくさんの問題も受け継いでいます。この色の代替え品としてよく使われるのは、普通のバーント・アンバーに黒を混ぜたものでした。ルーベンスが使っていた色は、バーント・アンバーよりは不透明でしたが、この新しい方法で作られた色よりは透明度を持っていました。
マティスのヴァンダイク・ブラウンは、不透明で特に高密度のアンバーから作られています。このため、他のマティスの暗いブラウンとの違いが明白であり、不透明度が多くの状況下で素晴らしいカバー力を見せます。透明度が必要な場合は、トランスパレント・アンバーやバーント・アンバー、そして半透明度が必要な場合は、ロー・アンバーやロー・アンバー・ディープを使います。
ヴァンダイク・ブラウンは、とても美しいチョコレートのようなブラウンです。この色を混ぜた混色は温かみと不透明度を上げます。そしてブラウンを作るのに最も理想的な色です。透明度の高い色で影を作ることは、焦点をぼやかすことに役に立ちます。その反面、不透明度の高い色は、強さを高め、見物する人に接近します。不透明度の高い色は光の中の物質の表現などに向いています。ヴァンダイク・ブラウンは、これらの色を作るのに役に立ちます。
ローアンバー・ディープ
ロー・アンバー・ディープは、ロー・アンバーよりは暗い色で、アンバーに黒を混ぜた色です。この色は、昔の巨匠たちがデッサンで使ったインクの色、ビスタ色に似た色です。ビスタ色とは、ブナ材を炭にして煮沸によって色を取り出しインクを作り出したものです。
木を燃やす加減によっては、黄色みを帯びたブラウンになるのですが、最も貴重な色はロー・アンバー・ディープに似た暗い色でした。ビスタ色は、ルネッサンス期のレオナルド・ダヴィンチから19世紀の画家たちのデッサンによく見られます。この名前は今でも使われていますが、オリジナルのブナ材から作った顔料は、限られており全て手作りで、限られたアーティストのために特別生産されています。
昔の巨匠がデッサンで使ったビスタインクのように、ロー・アンバー・ディープは美しい深いブラウンで、絵を描く下書き、アンダーペイントに使えます。伝統的な肖像画の描き始めは、白の下塗りをしたキャンバスに、透明なアース・カラーで下描きしました。この方法は、インプリマトゥーラーと呼ばれました。ロー・アンバーは、油絵の具画家にとってとても良い選択の色です。なぜなら、ロー・アンバーやバーント・アンバーは、そのブラウン色をマンガンの不純物からだし、そしてこのマンガンが絵の具の乾燥を早めます。薄く早い乾燥の絵の具を、厚く乾燥の遅い絵の具の下に塗ることは、常にベストの選択と言われ、それをファット・オーバー・リーンというテクニック名で呼ばれています。この薄いレイヤー、またはインプリトゥーラーの上に、アーティストは濃い色味の部分を塗っていきます。ロー・アンバーは、この段階での良い選択です。また、黒とグレーでこの段階を踏むテクニック、グリサイルという方法もあります。この暗いエリアの下塗りは、まだ薄い塗り方で塗られますが、インプリトゥーラーほど薄くはないため、下の明るい部分に対比して暗い部分が明確になります。これらの昔の巨匠たちのテクニックは、油絵の具では、それぞれのレイヤーの乾燥に時間がかかるため、19世紀になくなっていきました。その反面、アクリル絵の具は乾燥が早いため、油絵の具では、数週間から数カ月かかる何層かのレイヤーを1日で終わらせることが可能です。 そのため、昔の巨匠たちのテクニックを、今日の時代の流れの早い現代でも、実践的に提案できることになりました。それもアクリル絵の具の技術開発の進歩のおかげです。油絵の具のように、アクリル絵の具は、それぞれの色の乾燥時間の問題を気にすることなく色を選べるため、バーント・アンバーやロー・アンバーを選ぶことは最もありそうな選択です。さらに、これらの色は他の肌色などと相性が良くこの理由からも下塗りやインプリトゥーラーに選ばれる色です。
下塗り以外の用途として、ロー・アンバー・ディープは、他の色を暗くするのに最適の混色用の色になります。フタロ・グリーンとマティス・ローズ・マッダーと混ぜることで、とても柔らかいブラウン系のブラックを作り出します。とても美しく暗いブラウンとして使うことができます。
スキントーン・ディープ、ライト、ミッド
人物画は、とても長く尊敬された歴史を持っています。それはギリシャやエジプト文明まで遡ります。中世紀には、宗教的な図解書や、王族の肖像画が出現してきます。しかしながら、肖像画の新手法がたくさん発展したのは、ルネッサンス期でした 。伝統的なミニチュアの肖像画は、写真の出現までとても人気のあるものでした。
現代、古代、両方の肖像画家が同じように挑戦しなければならなかったことは、現実味のある肌の色を作り出す能力でした。肌にはたくさんのトーンや、違う光の下で繰り広げられる様々な色が混ざりあっています。
この問題への答えとして、マティスでは、ライト、ミディアム、ダークの三色の肌色ベースを特別に作っています。スキントーン・ディープは名前の通り、暗い肌色を作るベースになります。この色は、ロー・アンバー、トランスパレント・レッド・オキサイド、そしてフタロシアニン・グリーンを混ぜて作られています。この色はチューブから出したそのままでももちろん使えるのですが、他のマティス・カラーを使って色味を変え、深みやハイライトなどを作るようにデザインされています。なぜなら、人の肌は一色の平坦な色であるはずがないからで、アーティストはその深みや色味の違いを表現しなければならないからです。
方法としては、マティス・スキントーンカラーをベースとして、何色かの色を混ぜてバラエティのある色味を作っていくことです。実物、または写真を見ながら、これらの微妙な肌色の違いの混色を作っていきます。混色をする際は、明るい色に少量の暗い色を混ぜることで、暗い色に明るい色を混ぜるよりも効率的に混ぜられます。
肌色は、対象者を見ずにどのような色と混ぜれば良いかと提案しにくいのですが、この色に混ぜて肌色を作る色として:チタン・ホワイトやカドミウム・レッド、カドミウム・イエロー・ミデアム、イエロー・オキサイド、バーント・シェンナ、バーント・アンバー、コバルト・ブルー、フタロシアニン・グリーンなどが挙げられます。
実験的に肌色を作ってみたい場合は、アーティスト自身の手の色を見本として色作りをすると良いでしょう。
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