色のお話:赤




赤:原色

赤は色々な色を作るのに大切な色ですよね。原色と呼ばれる色です。夕焼けがもうこれ以上ないぐらい焼けているときに、太陽は赤い、赤く燃えていると思ったことがあります。子供の頃、血の色は赤と思っていたら、採血された自分の血を目視できるぐらい大きくなった時に、「そんなに赤って感じでもないのだ」って思ったこともあります。血の通った人間という表現の時に思い浮かべていた「赤色」とは違うと、でも後に、健康状態や状況によっても色が違ったりもするらしいと聞きました。
赤には、鋭くも近しい、激しくも暖かな、攻撃と優しさを同時に発信しているように感じるのは私だけでしょうか?色について考えている時に思い浮かべている色自体が、人それぞれ違うことでしょう。赤にも色々な赤があります。今日はそんな色々な赤をまとめました。


ナフトール・スカーレットマティス・レッドライトマティス・スカーレットDPP
プライマリー・レッドカドミウム・レッド・ミディアムキナクリドン・レッドナフトール・クリムゾンブリリアント・アリザリン


についてのお話です。作品作りのお役に立てれば幸せです。



ナフトール・スカーレット

スカーレットは、赤の中でも一番黄色寄りの赤で、よくロビンフッドに出て来るウィル・スカーレットが、この色で染められた服を着ていたと思われがちですが、本当はそうであると断定するのは非常に難しいのです。一番古いロビンフッドのお話の時代は、(ウィル・スカーレットは、初めの頃から出てきているキャラクターですが)色の名前の由来である果物のオレンジは、まだヨーロッパに紹介されていませんでした。そのためオレンジ色は、いろいろな赤やゴールド、またはレッド・イエローなどと呼ばれていたのです。赤に近いオレンジは、よくスカーレットと呼ばれていました。それ故、ウィルのきていた服の色が、スカーレット色だったのか、又はスカーレットと呼ばれていたが本当はオレンジだったのかは、今ではわかりません。
ナフトール・レッドは、1960年頃に一番初めにアクリル絵の具の色に加えられた赤色でした。顔料ナンバーPR112は、暖色の赤としてはのちに出てきた高価な赤よりも価格が安かったので、人気のある絵の具でした。ただし、耐光性は他の高価な色よりは劣っていましたが、すべてのアーティストたちが何百年もの間変化しないものを求めているわけではなく、たくさんのアーティスト達は、この色の耐光性以外の良い性質をとても気に入っていました。
マティスでは、オリジナルのナフトール・スカーレットの配合から、シンプルでありますが、とても重要な顔料、ヴァーミリオン(アゾ)のブレンドとしてよく知られる顔料オレンジ36を追加することで、改良がされました。このPO36の顔料を加えた赤は、多くの利点があるために自動車塗料の業界では一般的です。この際、混合により様々な利益を得られます。まず始めに、ナフトール・レッド顔料は、それのみでは透明度が高すぎますが、PO36を混ぜることで濃度とカバー力を上げます。次に、耐光性をある程度上げる事ができます。さらに耐候性も上げる事が出来るので、常設を意図しないが強い光にさらされる作品や、雨風はしのげるが屋外の作品などにも使える、という幅が広がります。

スカーレットは、アーティストにとってとても使い勝手の良い色です。暖色サイドの赤である事は、黄色と混ぜてオレンジを作るときに一番良い選択の一つとされています。そして、白色人種の肌の色を作るのに、昔の巨匠たちに使われた伝統的なヴァーミリオンと役割を分かち合います。寒色の赤を使ったピンクは、肌の色を表すのに限られた役割しか果たせないのに比べて、明るい赤またはスカーレットに白を混ぜたサーモン色は信じられないほど便利です。これは、サーモン色を作って肌色に全て塗ってしまえば良いということではなく、(肌色とは、個人によってまたは光によって幅の広いトーンを持っているので)そのサーモンピンクは、全ての範囲、オーカー、藤色、そしてその他の色など重要な色の一つであるということです。



マティス・レッドライト

顔料赤254は、最初にアーティスト用の絵の具に加えられたピロール顔料です。この顔料はもともと車産業でスポーツカーを含む、高級車用の塗装に使われていました。これ以前に使われていた赤の顔料は、長時間の直射日光に何年もの間さらされることで色あせしていたため、保存性の高い赤の顔料が必要とされていました。フェラーリなど、赤はスポーツカーにとってとても人気の色でした。
車塗装の業界では、顔料PR254の非公式の名称は「フェラーリ・レッド」でした。フェラーリではこの色を、ロッソコルソと呼んでいます。この色には、フェラーリが、色の作り方の特許を取って、他でこの特別な色を使えないようにしていると言う俗説があります。2002年までは、フェラーリ・レッドはこの顔料が使われていました。その後は、このピロール顔料の様々な色合いを使い始めましたが、ロッソコルソは未だにフェラーリの基本の赤として残されています。しかし、この色はアフファロメオ、BMW、ヴォルクスワーゲン、コルベット、レクサスにも使われているのでフェラーリがこの色の特許を取っているというわけではありません。
この素晴らしい赤は、1974年にミシガン大学の研究室でドナルド・ファーナムが偶然発見した色です。彼は他のものを探しており、赤は彼にとっては失敗の実験となり、それを公表したのでした。後にスイスのチバ・ガイギーが顔料として産業用に使えるように生産しました。そして1983年に特許を取り、価格の高さも加わり、会社にとって最も利益を生んだ顔料となりました。初めの発見者のファーナムは、失敗から見つかったこの色の可能性を発見できていたらよかった、と後に述べています。もしも彼がその後の開発、特許を取っていたなら彼はとてもお金持ちになっていたことでしょう。
マティス・レッド・ライトは、綺麗で純粋なスカーレット・レッドです。なぜならこの色はカドミウム・レッドよりも耐光性が高く、どのようなペイントのテクニックを使ったとしても自信が持てる色です。例えば、水彩画のように淡い色に仕上げたとしても、白と混ぜて薄い混色を作ったとしても、または、色褪せが一番多く起こる屋外での使用でも、十分な自信を持てる色です。PR254を含む明るい赤のピロール顔料は、とても高い保存性を持っています。これらは少し高価かもしれませんが、品質に比例しているためです。全ての明るいスカーレット・レッドと同じように、アーティストにとって、肌の色やその他様々な混色にとても重要な色になります。




マティス・スカーレットDPP

マティス・スカーレット・DPPは、驚くべき色です。DPPという名前は、ピロール顔料と言う化学名から来ています。DPPの正式名称は、ジケト・ピロロ・ピロール(Diketo Pyrrole Pyrrole)と言います。これは、生物学的な顔料で、胆汁に見つけることができる顔料に関連しています。1974年に合成色素が偶然見つけられ、1983年に特許が取られました。ピロール・レッドは1990年代からアーティスト・ペイントとして使われ続けています。さらに高級車のペイントとして使われており、顔料の高性能で成功した事で、化学者達にオレンジから深いクリムゾンの色まで、いろいろな色調の色を開発させる事につながりました。これらは、すべてカドミウムに匹敵する素晴らしい耐光性を持つ、という有益な特徴を示し、カドミウムよりも混じり気がなく綺麗で力強い色です。
ピロール顔料の広まりは、ヴァーミリオンがカドミウム・レッドに少しずつ変わっていったのによく似ています。その当時、この新しい顔料の数点の利点は理解されたのですが、高価であることでこの色の広がりは初めゆっくりと進みました。しかし、この色を好きになるアーティストたちは、だんだん増えていき、そして定着していきました。本物のヴァーミリオンは、毒性を持っているため健康問題を危惧されており、今では伝統的なヴァーミリオンは、古典派の巨匠の作品などを修復する時など、とても限られた分野でのみ使われています。これに似た状況で、カドミウムの健康問題を考えると、将来的にEUなどでの規制がかけられる可能性は高くなります。幸いにも、ピロール・レッドとオレンジをアーティスト達は、代わりの色として使うことができます。
最近アーティストにとって望ましい色である、とピロールが脚光を浴びたのが、ジャクソン・ポロックの今まで知られていなかったとされる、たくさんの絵が発見された時でした。これらの絵は1940年ごろの作品と噂され、そしてそれに続く絵の具のテストで、絵に使われている絵の具にピロール・レッドが使われていることが明らかになりました。ピロール・レッドはポロックの死後、数十年後にしか手に入らない絵の具です。贋造者は、顔料のセンスは良かったのですが、歴史の知識はあまりなかったと見られます。
マティス・スカーレット・DPPは、混じり気のないとても綺麗で力強いスカーレット・レッドです。明るい分布の赤などは、特に混じり気がない色ほど原則的に良いとされています。アーティスト達が、新しい混じり気のないクリーンな色と落ち着いた色を比べると、しばしば落ち着いて抑えられた色を好む事が多いですが、忘れてはいけない事は、少しの補色をそのクリーンで綺麗な色に加えることで、簡単に落ち着いた色を作ることが出来るのですが、落ち着いた色に何を混ぜてもクリーンで綺麗な色を作る事はできません。言い換えれば、とても綺麗で純粋な色は、アーティストにとって広い用途で使う事ができ、とても綺麗で強い色が必要な時にも役立ちます。マティス・スカーレット・DPPにはこの実用性が備わっています。この贅沢な色は、ポートレートや人物画などを描く際に、伝統的な巨匠たちの使ったヴァーミリオンに取って変わる事ができ、それと同時に無害です。この色は他の赤と同等またはそれ以上の永続性で、それは全てのテクニックに於いてふさわしい事でしょう。




プライマリー・レッド

理論的には、すべての色は原色と黒と白で混ぜることができる、または、水彩画の場合は白を省くことができます。なぜなら、水彩画の際は紙の白が白絵の具の役割をするからです。残念なことに、実際の顔料の現実は、常にいくらかの色を限られた混色で作ることは難しくなります。しかし、他の5色で作れる色に比べると、三原色と黒と白の混色の方が、幅の広い色を作り出すことができます。そのため原色を持っていることは、いろいろな面で役に立つことになります。
授業の中で先生が、色彩論を実践で生徒たちに見せることは、理論を理解するのにとても有効なことです。そして2次色、3次色がとても簡単に作れます。色は、伝統的なパレットで混色を行ってから使用することも出来ますが、点描画のように色をそのまま小さな点で描いていき、私達の目の錯覚によって色を混ぜることも出来ます。これは、雑誌や印刷物の4色印刷の原理と同じです。
マティス・ストラクチャーのプライマリー・レッドは、スペクトルの赤色の中でも真ん中の濁りが無い明るいレッドです。そのため、混色でとても適応性に富んだ幅の広い色を作り出します。この色はキナクリドン顔料で作られているため、顔料名はバイオレットの名称に入ります。これには、歴史の中の思いがけない出来事が関係しています。この顔料が初めに開発された時、バイオレット色であったため、PV19という表示になりました。そして大きな成功を収め、いろいろな業界で使われました。後に、化学者達が少し変形させたキナクリドン分子(化学者はこれをベータ、ガンマ型と呼びます)を作り出すのに時間はかかりませんでした。そしてとても美しい赤を作り出したのです。矛盾しますが、キナクリドン顔料に近い関係にある顔料は、レッド122ですが、この色は、アーティスト用絵の具では、とても美しいマジェンタに使われています。
キナクリドン顔料は、アーティストたちにとても好かれている顔料です。色はとても純粋で、透明度も高いことは場合によってはとても魅力的なことです。原色の赤は、色の強みが必要になりますので、マティスでは、この美しく半透明のレッドPV19顔料を使用しています。




カドミウム・レッド・ミディアム

カドミウム・レッドが1919年に紹介された時、バーミリオンは、アーティストにとって何百年もの間好かれてきた色でした。それは、品質が良いものは保存性も良く、人物の肌の色を作るのに最適の色と考ええられていました。レッド・アース・カラーが、この耐光性に追いつく唯一の赤でしたが、バーミリオンは、三つの大きな欠陥に悩まされました。顔料の品質が悪いと、時間とともに黒く変化してしまう事、これは少ない事例だったのですが実際に起こっています。もっと重要な面では、水彩絵の具やパステルとしては使えなかった事です。そして最も大きな欠陥は、純粋な硫化水銀であった事です。これはとても毒性が強い顔料で、製造者に取っても危険である事はもちろんのところ、アーティストに取っても危険が伴う可能性がありました。小さな傷や、スタジオ内で食事をする事で顔料を体内に取り込んでしまう事、タバコを吸いながらバーミリオンを使う事は、とても愚かな使い方です。
私たちは、カドミウムも毒性を含んでいる事を知っていますが、伝統的なバーミリオンに比べると低く、水彩絵の具としても使う事ができます。したがって、人気は着実に上がり、前世紀の中頃にはバーミリオンの使用頻度をはるかに超えることになりました。今日では、伝統的なバーミリオンの顔料が使われることは稀で、カドミウム・レッドが保存性の高い赤であると見なされています。
カドミウム・イエローは、カドミウム顔料の基本形と考えられています。これらには、硫化カドミウムが含まれています。オレンジやレッドのカドミウム顔料は、硫化カドミウムと硫化セレニウムの共沈殿によって作られています。これは化合物に関係したものに近いことになります。5〜14%の硫化セレニウムは、様々な色味のオレンジを作り、15〜25%でレッドを作り出します。セレニウムの量が最高値に達すると、レッドの輝きが薄れていき、鈍いマルーン・レッドを作り出します。一番効果的な量で、色の純粋さを残した深い赤色のカドミウムが、マティスのカドミウム・レッド・ミディアムになります。
赤色カドミウムの中間の色相は、アーティスト達に好まれる理由がたくさんあります。これはとても明るい血の赤色で、目を引く色で、多肢にわたって使える色です。さらに、カドミウム・イエローに比べると少し劣りますが、手に入るレッド顔料の中ではピロール・レッドが出てくるまでは、耐光性に最も優れた色でした。長期にかけて考えると、ピロール顔料が頂点に立つことになるのかもしれませんが、現在のところカドミウム・レッドが、その王冠を保持しています。それは、カドミウム・レッドの持っている数ある長所のおかげです。この色はとても不透明です。ある時期には透明感がある方が好まれましたが、不透明度とカバー力が重要である場合も多くあります。他の明るいレッド顔料はカドミウム・レッドのように不透明ではありません。そして、その他のレッドで、この利点に対して対抗できる新しいレッド顔料に比べると、価値のある顔料と言えるでしょう。




キナクリドン・レッド

キナクリドン・レッドの素晴らしい所は、幅の広い色合いでしょう。これはこの色が化粧品やプラスチックなど産業、特に自動車産業でとても扱いやすい色だからと言えます。他のどの顔料も幅広く魅力的なピンクからブルー・レッド、マジェンタ、そしてバイオレットと多様性を持ちつつ、同時に耐光性にとても優れている顔料は無いと言っていいでしょう。何故なら、車の寿命は20年以下と言われますが、ペイントの保存性は日光やあらゆる天候の下になりますので、色のテストとしては凄まじいもので、ギャラリーの壁に掛けられたアート作品になった場合には、500年とも言われています。自動車産業で使われる顔料は、アーティストが使う顔料として完璧と言っていいでしょう。そして自動車産業が大金をかけて行うペイントの研究は、アーティストにとって素晴らしい利益になります。
初期の赤色顔料はほとんど長持ちしないという性質のため、アーティスト用絵の具は何千年もの間悩まされてきました。そして保存性のみならず、それらは毒性が非常に強いものでした。私たちはキナクリドンが手に入る現代に生きていることをとても幸せと思います。この顔料が無害であることのみならず、保存性の高さ(カドミウム・レッドと同等の保存力)があること、そしてブルー・レッドの色合いの領域でピロールが提供できないことをやってのけます。マティスのキナクリドン・レッドの独特な色合いは、初めに開発された異なったレッドの内の一つで、バイオレットよりのキナクリドンです。(顔料の番号がPV19であるのはマティスが間違っているからではないのです)そして、これは特に透明度が高い顔料です。もしも不透明度が必要な場合は、カドミウム・レッドを、しかしグレージングや宝石のような光が通る炎などの色には、透明度が必要になります。そんな場合は、カドミウム・レッドではなくキナクリドン・レッドのチューブを手に取ってみましょう。




ナフトール・クリムゾン

ナフトール顔料の歴史は長く、初めて開発されたのは1880年代でした。パラ・レッドという名前で初期の成功を収めましたが、20世紀には、ナフトールの分類には入っていますが、より勝った顔料で保存力がはるかに高い、PR170等に取って代わられました。これらの属名はフェノールから来ており、アゾ顔料と説明されていますが、根源的にはナフタリンから派生しています。キナクリドンが紹介される前は、ナフトールが、この色の範囲の中では一番耐光性の強い赤でした。そのため、自動車のコーティングに何十年も使われてきました。印刷業界でもこの色の人気は保ち続け、高品質の印刷の際に使われました。
インクは保存力が非常に優れていると考えられていましたが、自動車産業では、妥当な耐光性であるという評判でした。つまり数年は色を保ち続けますが、自動車の一生のうちには色あせしてしまうと言う事です。アーティストにとっての耐光性は、強い濃度の場合は優れていますが、薄く塗られたものは色あせするかもしれないと言う事です。しかしながら、この色はその人気を保ち続ける理由があるのです。まず、価格の利点が、その他のよく似た色の他の顔料から作られたものより良い事です。すべての作品が1000年も保存する事を目的としておらず、高価な顔料を使う事はいつも正しい事ではないという事です。二つ目に、この色はとても美しいクリムゾン色で、色は力強く、カバー力もキナクリドン・レッドより高いという事です。特に赤色などの高価な色を使うと、混色の際、少量を混ぜがちですが、ナフトール・クリムゾンはその強さが長く保存されることでしょう。
ナフトール・クリムゾンは、たくさんの方法の中でも、その強さと純粋な赤という事からグラフィック・アートにも使われています。ウルトラマリン・ブルーと混ぜる事で素晴らしいバイオレットを作り出し、ブルーの種類を変えることで、例えばコバルト・ブルーで混色を作ると、控えめなバイオレットや藤色を作り出し、セルリアン・ブルーと混ぜると、もっと優しく中間的な色になります。白を混ぜると寒色のピンクに、バーント・アンバーは暖かいバーガンディー色になります。本当に色々多彩なアーティストにとって大切な色です。





ブリリアント・アリザリン

この色が出回る前に、1868年に始めて合成されたアリザリン・クリムゾンは、すぐにアーティストたちの人気を集めました。その深いチェリー・レッドは、混色の際にとても扱い易かったからです。アリザリンは、アカネの根っこから見つかった着色作用物質を元に開発されました。アカネは、紀元前1500年の古代エジプトから使われていました。それは絵の具の色にするにはとても弱かったのですが、媒染剤を使って布を綺麗な赤に染めることができました。古代エジプトや、ギリシャ、ローマなどに断片的に残っている例を取っても、とても人気のある色であったことがわかりますが、絵画作品にはアカネの痕跡が残っていないことから、絵の具としては使われていなかったと思われています。
歴史家たちがよくルネッサンス時代でアカネが使われていたと提議したりしますが、その根拠の少なさから推測の域を超えておらず、確認された例では、ケルメス昆虫から取れた、ラックという名前で知られている、赤色レーキ顔料であることが明らかになっています。アカネから絵の具の顔料を作る事は、1804年にジョージ・フィールドによって 開発される迄無かったのです。合成のアリザリンはその数十年後で、イギリスのパーキンスとほぼ同じ時期にドイツのグレーベとリーパーマンが合成する方法を発見しました。双方ともに特許を取ったのですが、パーキンスが1日遅れだったために諦めなければなりませんでした。長い間人々は、アカネを使いそして改善する方法を模索していたにもかかわらず、国も違う二つの研究所が同じ時期に、同じアイディアで、同じ方法で成功し、それが1日違いというのは驚く事実だと言えるでしょう。
アリザリンは、初めは保存性が高いと思われており、長い時間を超えて、それは間違いであったことが分かったにもかかわらず、その製造と取り扱いは大きな産業になりました。この低予算で美しい色は、その使用を1930年に保存力がとても高い顔料が入手可能になった後も、長い間使われることを確実にしました。それは米国材用・試験協会(ASTM)による耐光性の顔料テストが行われて、発売されていた中でも一番良いものが、アーティスト絵の具としては不適当な、ASTMIIIとランク付けされるまで、この顔料が低い水準であることは知られることがありませんでした。50年代にアクリル絵の具が手に入るようになった時に、製造者たちはこの深いクリムゾンの色合いに似た保存性が高い代替物質を探しました。
アリザリンが少しくすんだクリムゾンであることを模倣して、アリザリンに少し黒を混ぜることをしている他の競合企業とは違い、マティスでは綺麗で明るい色を作り、ブリリアント・アリザリンと名付けました。この色はアリザリンと同じ役目を混色の際に発揮して、同時に耐光性や保存力も高く、明るい色を作る混色の際に起こるくすみもありません。そして、発売以来アーティストたちに愛され人気の色になりました。ただ、ASTMIIなのですが、ではASTM IASTM IIの違いはなんなのでしょうか?
ASTM IASTM IIも両方とも耐光性が高いと承認されています。これは普通の室内の保存で顔料を十分に使った状態で色の変化が80年から100年間起こらないということです。ASTM Iは同じ信頼性を、白に薄く色をつけたものも色褪せしないのに対して、ASTM IIは白に少しだけ混ぜられた薄い色は少し色褪せが起こりうるということです。マティスではマティス・ローズ・マッダーやディープ・ローズ・マッダーなどのASTM Iの代替になる色を揃えています。しかしこれらの色は、ブリリアント・アリザリンに比べて少し高価になります。予算が限られているアーティストにとっては、価値のある色と言えます。
多くの場合、価格の上下により色の美しさも上下するのですが、このブリリアント・アリザリンはこの仮定に反して、とても美しい色です。
ブリリアント・アリザリン(クリムゾン)は、とても強いチェリー・レッドでチューブから出したそのままの美しさや、綺麗なアンダートーンを楽しめます。混色にもとても役に立つ色で、輝きを持っています。藤色やラファエル前派の画家の絵に見つけられる、暖色のバイオレットを作るのにも最適です。深いバイオレットやパープルも、ウルトラマリンやその他のブルーと混ぜることで作れ、ブラウンやホワイトを使うとバイオレットの全域、ラベンダーから薄暗いローズ、そしてバーガンディーまでを生み出す力があります。フタロシアニン・グリーンと混ぜることで、輝きのある透明で暗いチャコール色を作り出し、グリーンやレッドに少し移行したり、少量のウルトラマリン・ブルーを混ぜたりする事が出来ます。多用途に扱えることは、ブリリアント・アリザリンの品質証明です。














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