色のお話:ベネチアン・レッドからパープルへ



ベネチアン・レッドやマルーン、ローズマッダーと言えは、くすみと鮮明さとの間を行き来しているような、でも暖かい綺麗な色ですよね。そして青に向かう紫もここのグループに入れました。歴史的背景、化学的背景、そしてアーティストとして、いろいろな角度からそれぞれの色を見たときに何か新しい発見があるかもしれません。絵を描くことの面白さはその中にある色をどのように使うかということも含まれています。




ベネチアン・レッド


ベネチアン・レッドは素晴らしい特徴を持つ純粋な酸化鉄(アイアン・オキサイド)です。この名前が付けられたのは、ベニスの内陸側で取れる自然の酸化鉄の色が、ポッツォーリ近くで見つかる濃いバイオレット・アイアン・オキサイドと、その他に見られる普通のレッド・オキサイドの中間ぐらいの色だからです。これは、相対的に暖系のマストーンを持ち、比較的に寒系のアンダートーンを持つ珍しい特性を持っているので、特徴のあるピンクを作るのに最適です。(マストーンとは、絵の具そのままの色のことで、特に厚めに塗った時の色のことです。アンダートーンとは、薄塗りした時の色のことを言います。)普通のレッド・オキサイドのような、不透明度ではないことから、このアンダートーンが非常に輝きを持ちます。ベネチアの画家達は、特にティッツィアーノ・ヴェチェッリオの使い方を見てもわかるように、この色を生まれつきのセンスの良さで使い分けました。 そしてこの色はイタリアでとても有名になりました。ベニス郊外にある採石場では、ティッツィアーノが使っていた顔料であると言われる採石場が有り、少量を今でも製造していると言う事ですが、大量生産には足りないぐらいの少量という事です。その代わりに、工業生産はその他のベニスの地域へ移行しました。なぜなら、自然のオーカーの製造には色々な質の原料が必要だからです。しかし、ほとんどの製造会社は、自然のオキサイドに比べて純粋な赤である事と、確実であるから合成物を使っています。これは耐久性の高い色の一つで、薄く塗られた箇所の耐久性も高いことが知られています。付け加えるならば、この暗めのレッド・アイアン・オキサイドは、地域や時期によって違う名前をつけられましたが、ベネチアン・レッドという名前は、古く常に最上の顔料であるということを表します。
同じ色合いのレッド・オキサイドは、石器時代のフランスの洞窟画で発見されています。そしてこれが発見された時の色は、1万6千年前と変わらぬ綺麗さと鮮やかさがありました。確かに洞窟の中ですので真っ暗なままの保存であったため、光によって起こる色あせを保護したことにはなります。耐久性が最も優れた顔料であったとしても、光は色を変化させる一つの原因です。その他、空気中の湿度や、閉鎖された場所での他の物質との化学反応などは作品の色を変える要素です。特に石器時代の壁画は、現代のようにアクリル絵の具のフィルムによって、環境から顔料が守られていません。レッド・オキサイドは、ものすごく長い時間の経過を経ても、変化を見せなかった。そして私たちが見たものが何千年も前に描かれた変わりの無いものであると確信しています。
その他に変わっていない事は、アーティストにとって、とても役に立つということです。年月と共に利用できるようになった、明るく素晴らしい色があるにもかかわらず、ベネチアン・レッドは特別な場所を保持しています。これは土のようなバージョンのブリリアント・アリザリンで、色合いを少し弱められた色です。そのため混色は非常に似たものがあるのですが、重要な相違があります。混色は常に柔らかく、ブリリアント・アリザリンよりも色調を弱める特徴があります。ベネチアン・レッドでピンクを作る時には、人の肌の色がその優しさから、綺麗に表す事ができます。有機顔料のいとこのようなこの顔料は、バイオレットや藤色が作れますが、ベネチアン・レッドで作る藤色やピンクは、ぼんやりとした感じの色味になり、これらは自然界で見られる色です。そしてこれらの色は、美しさと繊細さを兼ね備えており、この和らげる効果は他の色との調和を作る手助けをします。不透明性を比較した時の色にも違いが出ます。ブリリアント・アリザリンは、簡単に透明なグレーズ色を作ることができ、ベネチアン・レッドはそのカバー力に力を発揮します。そのため、ベネチアン・レッドは、ブリリアント・アリザリンを補うことができるのです。補色ということではなく、補い合うという意味です。
アーティストがこの色を使ったら、なぜティッツィアーノがこの色を愛し、色の選択の少なかった石器時代のアーティストの作品が、とても美しいことがわかります。



トランスパレント・ベネチアン・レッド


トランスパレント・ベネチアン・レッドやパーマネント・マルーンは、両者共にベネチアン・レッドと混ぜることで、光の当たっている、または陰になっている深く土のような赤色を表現することができます。昔の巨匠達は、影の部分は暗く透明度があり、明るい部分は不透明で、その中間色はこの二色をぼかし混ぜあわせ、キャンバスの質感を使って色の移り変わりを表しました。ぼかしの技法は、通常明るい色を乾いた下地の色の上に薄く塗り、下の色が見えるように上塗りをすることを言います。そしてこの技法は、キャンバスの質感がある方がうまく上のレイヤーを作ることができます。例えば、小さなキャンバスに、横から光が当たっている布が畳まれている絵を描いていると仮定します。全体はトランスパレント・ベネチアン・レッドで、そこに少しのベネチアン・レッドを織られた布の質感を出す為に加えます。これは暗さや透明度を妨げない程度に行います。そしてこのレイヤーの絵の具が乾くまで待ち、ベネチアン・レッドでぼかしの技法を使って、中間の明るさを作っていきます。そしてアッシュ・ピンクでベネチアン・レッドを明るくして、明るいトーンを作っていきます。この例ではベネチアン・レッドを使いましたが、トランスパレント・ベネチアン・レッドを使ったり、その他の透明な暗めの色を下地に使ったりすることもできます。
トランスパレント・ベネチアン・レッドやパーマネント・マルーンは 、両方共上記のようなテクニックを使うこともできますが、トランスパレント・ベネチアン・レッドには、手頃な価格であるという利点があります。高価な顔料をそのユニークな特質のため使わなければならない場合もありますが、それほど必要でない場合に使える手頃な絵の具があると助かります。それに、ここで注釈を入れておきたいことは、それぞれの顔料の値段によるグレードの違いは、相対的な品質にそれほど関わっているわけではありません。それよりも製造段階のコストがかかることが多いのです。ある顔料は原材料の値段が高い場合や製造が難しく、それにかかる時間が長いという場合があります。
トランスパレント・ベネチアン・レッドの他の使い方として、とても効果的なのがMM24イリディーゼント・メディウムやイリディーセント・ホワイトと混ぜて色を明るくすることです。この濃厚な赤みのあるブラウンは、その透明度の高さのおかげでイリディーセントの効果がとても美しく、金属などの質感を出すさいに非常に便利です。バリエーションとしてマティスのメタリックカラー、メタリック・ブロンズ、メタリック・コッパー、メタリック・ゴールドなどを、金属の色に応じて使い分けることもできます。トランスパレント・ベネチアン・レッドは、暗い金属部分などに素晴らしい効果を表します。この色は多様な才能を持っており、暗い赤色から、暗めの土の色、そして金属系の色などと上記に挙げましたが、その他にもウルトラマリン・ブルーと混ぜて深く輝かしいバイオレットが作れます。これらの色は近年手に入るようになったのですが、すでにこの色が無い昔を考えられないほどになっています。



パーマネント・マルーン


顔料番号レッド179は、ペリレン・マルーンとして化学者によく知られた顔料です。ペリレンの分子は、二つのナフタリンの分子が背中合わせに結合した時に出来ます。これは“ペリ”と呼ばれる配列で、たくさんの面白い特性を持っています。まず、この分子はとても安定しているため耐光性に非常に優れています。そして、太陽光発電やLEDライトの研究に利用価値がある特性を持っています。絵の具の製造会社にとっては、顔料とし少しもどかしい色です。永続的保存性や無害である事、化学薬品や風化への抵抗力、そしてほとんどの画材媒体との適合(しかしアクリル絵の具の調合には少し難しいところがあります)、そして黒から赤へとの広い範囲の色合いを持っているなど、顔料が持っている良い特性をたくさん持っています。落胆させられるところは、綺麗な明るい赤ではなく、深いマルーン色であることです。人々が望む明るく綺麗な色と比べると、それに打ち勝つのは難しく、売り上げも限られていますが、アーティストにとっては理想的な色なのです。何世紀にもわたり、アースカラーはアーティストのパレットに欠かせない、とても大切な色で、顔料はどの国でも取れるありふれたもののため、赤や黄色系の色は簡単に手に入りました。これらの使いやすい色も一定の制限があるため、イエロー、レッド、バイオレット、ブルーやグリーンなどの新しい顔料の開発がされていました。唯一の目を引く例外は、19世紀中頃に開発された人工のアイアン・オキサイドで、より信頼できるアースカラーであるとともに、マーズ・バイオレットなどのありふれた色合いではありませんでした。そしてこの状態は1世紀以上続いたのです。
前世紀、最後の10年から変化がありました。透明のアイアン・オキサイドが入手可能になり、絵の具の製造会社によって、いろいろな高性能有機顔料を使った実験が始まりました。初めの頃はベネチアン・レッドやパーマネント・マルーンは赤の分類の中に入れられ、他の明るい赤や鮮やかな赤と一緒にされましたが、これらの色の利用価値は明確で、アースカラーの仲間に入れることが考えられました。なぜならこの落ち着いた色は、混色の際に明るい赤の混色の特性よりも、アースカラーのように作用したからです。
パーマネント・マルーンの透明性はとても素晴らしいものでした。それまでの不透明な伝統的アースカラーには、透明度が必要でした。そしてアースカラーに透明度が加わったことで、創造の可能性は急激に増加させられたのです。水彩画のテクニックで色の美しさの恩恵を受けることができ、グレーズ(薄塗り)にも最適です。これはとても深い赤で、アンダートーンでその美しさが見られます。例えば赤い布をたたんだ影になっている部分などに、うまく使うことができたり、ベネチアン・レッドと混ぜることで色の豊かさを増したり、コバルト・ブルーと混ぜると豊かな暖かいバイオレットを作り、イエロー・オキサイドやニッケル・タイタニウムと混ぜることで、黄金のようなアースカラーを作ることができ、オレンジに混ぜることで、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが愛した落ち着いたオレンジを作ることができます。この色は少し高価なアースカラーですが、美しい混色はアーティストに大きな報酬を与えることでしょう。




ディープ・ローズマッダー(パーマネント)


ディープ・ローズマッダーは、とても深い赤色で、化学の業界ではベンズイミダゾロン・レッドとして知られています。この色は大量に作られており、プラスチックの色付けや、水性の絵の具、インク、そして繊維業界でデザインを布に印刷する際にも使われています。アリザリン・クリムゾンにとても似ている色で、混色などの際も同じように色を作れるのですが、アリザリンの悪い特徴だけは受け継いでいません。ディープ・ローズマッダーはとても耐久性に優れており、カドミウム・レッドに値するぐらいの耐久性を持っています。ベンズイミダゾロンは、アゾ顔料の一つで、アルファベットで見ると名前の中にアゾを含んでいます。アゾ顔料はとても大きな有機顔料ファミリーで、黄色、オレンジ、赤の範囲の一部です。このように大きなファミリーの場合、ある色は同じファミリー内の他の色と比べて、耐久性に劣るものが出てくることを予想されます。そしてその中で一番良いもの、ディーブ・ローズマッダーはこの例のように、カドミウムと同じレベルと言える耐久性を持っており、例えば淡い色や白を混ぜた際の耐光性はカドミウムよりも高くなります。
この顔料は、顔料業界の中でも耐光性、耐風化、耐化学薬品、の性能が高いと考えられ、その上、他の耐久性の高い顔料よりも安価であることから広く使われています。アーティスト・カラーとしては、色々な画材に向いており、アクリル絵の具での自然な高透明度はその素晴らしさを露わにします。アクリル絵の具と油絵の具の重要な違いの一つに、油絵の具で使うアマニ油は、自然の黄色味を含んでいるのに対して、アクリル絵の具は常に透明と言う利点があります。これは油絵の具の製造会社にとっては、問題の一つで、アマニ油よりも自然の色味を含まない油もあるのですが、それらはアマニ油に比べて、強い絵の具の塗膜を作り出す事ができません。白や青などの色は特に、顔料の元の色に比べると色が変わっているのがわかります。それに比べて、アクリル絵の具は、常に顔料が持っている色の美しさを出す事ができます。なぜならそこに加えられる色はないからです。ディーブ・ローズマッダーの場合もアクリルの塗膜の透明さが故に、自然のこの色の透明度がこの色のアンダートーンの素晴らしさを助長します。
その他の油絵の具との違いは、グレージングの時のこの色の特性です。油絵の具では、グレージングは最後に行われる工程で、ゆっくり乾燥します。アクリル絵の具の場合は、どの段階でもグレージングを行うことができ、乾燥の速度も早くなります。ディープ・ローズマッダーはグレージングにとても相応しい色です。くすんだオーカーの色を高めることもできます。グレージングの際にはマティス・アクリリック・ペインティング・メディアムMM9で薄めてお使いください。
ディープ・ローズマッダーは、マティス・ローズ・マッダーを補う役目があります。暗めで、ブルー・レッドではなく、重要なことは、もっと透明度があるということです。そして価格の面でもマティス・ローズ・マッダーよりお手頃になります。双方の色にそれぞれの役割や長所があり、これは片方が他方より優れているということではありません。アーティストの作品によって、どちらが成果を得られるかが変わってきます。これは個人的な選択になります。藤色や中間のバイオレット色、そして美しく輝くブラックをフタロシアニン・グリーンと混ぜて作る場合は、マティス・ローズ・マッダーの方が好ましいと言えるでしょう。反対に、ディープ・ローズマッダーは、暗めのパープル、他の赤色を暗いトーンに変えることに関しては負けていません。価格の利点も無視できません。全てのアーティストがお金持ちであるわけではなく、もしもその理由のみで選ばれたとしても問題はありません。なぜなら、幅の広い濃く情熱的な赤からアリザリンのような混色を可能にする色は、ウルトラマリン・ブルーと混ぜることで濃いパープルやバイオレット、とても輝かしく美しいそれらの色は、ジオキサジン・パープルで作るバイオレットやパープルよりも耐候性も高くなります。アースカラーと混ぜても素晴らしい色が作れます。他の赤より明るいわけではありませんが、アイアン・オキサイドやアンバーとの混色においても、完璧に調和します。ベネチアン・レッドと混ぜるととても深い赤を作り出し、バーント・アンバーとでは、バーガンディー、レッド・ワインの色を作り出します。イエロー・オキサイドとの混色ではとても個性的なバーント・オレンジやゴールデン・オーカーを作り出します。



バーガンディー


バーガンディーは、深い赤みがかったパープル色で、何年にも渡りとても人気のある色です。この色は、古代の遺跡や美術品に使われたティリアン・パープルに似ています。その色は、海のカタツムリ、巻貝から作られており、当時銀と同じ価格だったと言われています。この色はローマ皇帝が身につけた色で、一般の人達はこの色を使うことを禁じられていました。色の起源は古代のフェニキア人、又はミノア文明とかなり古い歴史を持っています。
バーガンディーは幸運なことに、古代の色に比べて、全く手頃な値段です。これはキナクリドン・レッドとナフトール・レッド、そしてブラックの混合顔料の色です。パレット上で混色ができるのに、なぜ初めから混ぜられているこの色が必要なのでしょうか?端的に言うと、この色の魅力です。そして人々は綺麗なものや、魅力的なものを買ってしまいます。初めはそれでいいかもしれませんが、それではあとが続きません。もちろん綺麗だけではありません。現実的に、アーティストがスタジオで制作をする際、アーティストによって使いやすい色、そうでない色が出てきます。
何故なら、それは彼らがある種の混色を作って、それをベースとして絵を描き始めるということが、よく絵画では使われるからです。例えば、アースカラーは他の色に比べて明るい色ではありません。しかし、それらの控えめで、土のような調子は、人間の肌や、自然の岩、木などのほとんどのものに対して最適な色です。バーガンディーは、アースカラーに近い深みのある赤と言えます。そしてその色は、赤ワインのような暗い色で、髪の毛の色や花、そして影になった肌の色などによく使われています。この色はとても便利な色で、アーティストにとっても使いやすい色ですが、この色の単色顔料がないため、顔料を混ぜて作られた色しかないのです。たくさんのアーティストはこのあらかじめ顔料を混ぜて作られた色を重宝しています。時間の短縮と、実際に色を混ぜたときにある微妙な色の違いはなく、常に同じ色であるという利点があります。
バーガンディーは驚きの色なのです。暗目の赤い革のようなバーガンディーを作ることが簡単に思いつきますが、他の色と混ぜて素晴らしい色を生み出します。オーストラリアン・ゴースト・ガムは、混色の際に混ぜる色としてはあまり思いつかないかもしれませんが、この2色の混色は薄暗くぼんやりした非常に美しい色を作り出します。バーガンディーに入っているレッドが、その薄暗さの中に美しいピンクのようなアンダートーンを作り出します。薄暗い色はガム・ツリーの木の皮や、田舎の夏の午後の光などの色を探索するのに最適です。とても暑い日には、インクのようなバイオレットの影が岩などの割れ目に見えますが、バーガンディーにウルトラマリン・ブルーを混ぜることで、このようなバイオレットを作ることができます。この2色で作られた暗いバイオレットは、とてもミステリアスで、隠れた深みがあります。その反対に、セルリアン・ブルーと混ぜるととても違った色が作れます。このブルーは柔らかく優しいので、自然の野花や、遠くに見える丘などの色を作ることができます。このブルーはスキー場の地平線へ沈んでいくお日様や、空が日中の青から夜に変わる色などに最適です。




ジオキサジン・パープル


ジオキサジンは、初期のアクリル絵の具の色展開に含まれていたオリジナルのバイオレット色です。とても綺麗で深い味わいのあるバイオレット色で、アーティスト達にとても好まれました。この色はカルバゾール・バイオレットとして知られており、この両方の名前は同じ顔料のことを指しています。ピロール顔料と化学的にとても近く、大量生産がされており、アーティストの絵の具として使われているのはほんの一部です。なぜならこの色の基盤となる染色の力がとても強いということで、高度に濃縮されたものは黒に見えるため、黒のインディアン・インクとして販売されています。これは新聞社などで使われている安価なインクになります。アクリル絵の具としては、アーティストにとって要望の強い綺麗なバイオレット色になるような製法で作られています。
この色は完璧なのですが、耐光性の度合いはASTM IIを示しています。これは少し誤解を招く場合があります。それぞれのASTMのランクは、それぞれ色に応じた広帯域の耐光性です。そのため、ASTM Iの顔料、例えばフタロシアニン・ブルーなどは変色なしという結果が出ています 。または、80−100年の間ほとんど変化を感じ取ることができないという結果なのですが、イエロー・オキサイドを見てみますと200年以上かけてやっと感じ取れることのできる変化が起こるという結果が出ています。全てのASTM Iは耐光性がチューブから出したそのままの色、または白で淡色にした色の両方がこの耐光性を持っているとしています。色は淡色化された時に変色の恐れが多く現れます。ASTM IIの色はそのままの色では変色はないのですが、白に混ぜられた淡色になった際に変化が現れるということです。ジオキサジン・パープルは、ASTM IIとランク付けされていますが、その中でも一番上で、業界での評判も良く、ごく少量の変色が見られますが、それはとても薄く仕上げられた淡色になった時の話になります。要約すると、ジオキサジン・パープルはとても耐光性の強く、アーティストが安心して使える色であるということです。
21世紀になって、顔料の選択肢は非常に多くなり、アーティストたちにとって、限られた色の範囲しかない状態が考えられなくなっている状況です。19世紀にはその状況下で、良いバイオレットの顔料が手に入らなかったため、バイオレットは混色で作られていました。今日のそれに変わるたくさんの選択の中で、ジオキサジン・パープルは業界の基礎となり、プラスチック製品や、印刷インク、床用の素材、織物、ゴム、ハウスペイント、産業や自動車の塗料などに使われています。
アーティスト達は、常にバイオレットから柔らかいラベンダー色、藤色、そして初期の貴族や王族の肖像画家にとって支柱となり好まれた、深い帝国のパープルを重んじていました。印象派の時代からは、このバイオレットがアーティストにとって違う重要な意味を持つようになりました。印象派の画家たちが、黒の代わりにバイオレットを影に使い始めたことで、モダンな時代の明るく魅力的な絵画への重要な役割を果たしていると言っていいでしょう。ジオキサジン・パープルは、印象派のような色を出すのに素晴らしい出発点と言っていいでしょう。ウルトラマリン・ブルーと混ぜてブルー寄りのバイオレットを作ったり、マジェンタ・クゥイン・バイオレットと混ぜて暖色系のバイオレットを作ったり、またはそのままで深みの有る暗いパープルを作ったりできます。ジオキサジンはマジェンタ・ライトやパーマネント・ライト・バイオレット、オーストラリアン・スカイ・ブルーなどと混ぜて明るめの色を作ることができます。常に覚えておきたいことは、とても薄い淡色を作る際はチタン・ホワイトを混ぜますが、通常色を明るくする際には、元の色に近い色を混ぜたほうが良いということです。ジオキサジンは万人のパープルまたはバイオレット色で想像できる限りのバイオレット色を作ることが可能です。



パーマネント・ライト・バイオレット


パーマネント・ライト・バイオレットは、とても美しいパステル調のバオイオレットで、その必要性をぱっと見ただけでは理解できないアーティストもいると思います。しかしこの色は何年もの間販売され続けています。それはたくさんのアーティストにとって必要であるからです。グラフックのアーティストはこの色を好み、大きなポスターのような作品に使いっているところが想像できます。しかし、この色が長年必要とされているのには、それよりももっと深い理由があります。まず、この色はオフ・ホワイトとしての役割を果たしています。オフ・ホワイトとは、アーティストにとってとても重要な色です。名前からもわかるように、白に少しの色が加えられている色のことを指します。マティスでは多くのオフ・ホワイトを作っています。純粋なチタン・ホワイトは、色を明るくしますが時にはきつ過ぎたり、色味を奪い取ったりしてしまいます。そのため、色を明るくする場合には同色の明るめの色を混ぜていく方が、チタン・ホワイトを混ぜるより自然に色を明るくできます。チタン・ホワイトは一番明るい色に使うのが良いでしょう。パーマネント・ライト・バイオレットは、バイオレット色を明るくするのに非常に向いています。
そしてこの色は、藤色やラベンダー色、明るいバイオレット色を作る際のベースの色として素晴らしい活躍をします。これらの色は風景画や想像的な作品に不思議な空気感を出します。例えば、ロマン主義のアーティスト、特にターナーの空気感を出すバイオレット、藤色、ブルー、ゴールド、イエローやレッドの美しい対比で使われています。バイオレットは幅の広い感動を表します。空想的な作品を手掛ける際には、敏感な藤色から精神的なバイオレット、尊大なパープルなど、これらの感情の深みを作るのを助けます。またはもっと伝統的な風景画にも感情を込めることができます。藤色は夏の暑さを感じさせたり、広い空間を経て遠くの丘や山々を感じさせたりすることができます。パーマネント・ライト・バイオレットは、ウルトラマリン・ブルーと混ぜることで、とても柔らかいブルー系の藤色を作ります。ジオキサジン・パープルかバーガンディーと混ぜると、パープル寄りの藤色を作ります。ベネチアン・レッドと混ぜるともっと素朴な藤色を作り、アースカラーとよく合う色ができます。この色を使うと、色々な明るめの色をどんどんテストしたくなります。


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