絵の具の色のお話 (白)

白について

白と言う色は、絵を描くときにとても重要な役割を果たしますよね。混色で絵の具の色のトーンを明るくしたり、カバー力を上げたり、ベールをかけたり、光を入れるなど、出来ることには限りがなく、とても重要な色になってくると思います。そんな白にも色々な種類があります。そんな白の歴史と現在の状況を知ることは、白の役割だけを見て使うだけではなく、作品に歴史的な意味付けを加えるきっかけになったらと思いまとめてみました。

チタン・ホワイト


チタン・ホワイトは、20世紀前半に開発され、1920年にはアーティスト絵の具として出現し始めました。アーティスト達は、はじめこの新しい色に疑念を抱いていました。なぜなら開発された頃のこの色には、チョークのようになってしまうと言う問題があり、これはそれから10年かけて解決されることになったからです。しかし、この問題がなくなった段階で、この色の人気は急上昇しました。
はじめは、グワッシュやパステルなどに使われました。なぜなら鉛白はこれらの画材には向いていなかったからです。そしてこの色の純粋な白さや強さ、不透明度が理解されるようになって油絵の具でも使われるようになっていきました。この段階で一番耐光性が強い顔料であろうことがわかり始めました。ほとんどのアーティストたちは、この素晴らしい品質を好み、1940年代には、80%のアーティスト用画材のホワイトはチタン・ホワイトで作られるようになりました。
1950年代のアクリル絵の具の開発で、チタン・ホワイトの普及は世界的になり、チタン・ホワイトがこの新しい画材の基準のホワイトになりました。1970年に、鉛白の健康問題が危惧され始めたため、残りの油絵の具にもチタン・ホワイトに変わっていきました。チタン・ホワイトは鉛白に比べて品質や色だけではなく、食品着色料として使えるほどの安全性を持っていました。現在、食品、歯磨き粉や絵の具などに使われるほぼすべてのホワイト顔料の70%以上はチタンまたはその関連のもので作られています。
マティス・チタン・ホワイトは、チタン・ホワイトの良いところをすべて含んでいる絵の具です。透明なアクリルの乳剤を使うことで、チタンの二酸化物の輝き、明るさそしてその純度を最高に表すことができます。マティスのチタン・ホワイトの不透明度の高さは、顔料濃度がとても高いことを表し、純粋な白さ、保存性の高さを持っており、そして環境にも安全な絵の具になります。この色はアーティストのベストフレンドです。



ジンク・ホワイト


マティス・ストラクチャー、ジンク・ホワイトは、チタン・ホワイトと並んでとても強く鮮明な色です。ジンク・ホワイトは、寒色系のトーンを持っており、混色や透明なグレージングに最適な色です。
ジンク・ホワイトの(混色用のホワイトとしても知られている)一番の特徴は、透明度があることです。ジンク・ホワイトは、チタン・ホワイトに見られるような 強く白い色合いをつけません。
チタン・ホワイトは、混色の際一番不透明度が高く、明るい色と知られていますが、これはパステル色への移行が比較的素早く起こり、本来の色の鮮明度を低くしてしまうこともあります。この急激な混色の変化をコントロールする力がなければ、少しだけ色を明るくしたい時には、もどかしくなる可能性があります。それに対して、ジンク・ホワイトは、持ち前の透明度によって、絵の具の色を綺麗に明るく色付けするのに役立ちます。
ジンク・ホワイトは、アーティストの水彩絵の具として1834年まで受け入れられていました。しかし、それはこの色の問題点を克服する数年前のことで、伝統的な油彩絵の具の色として使われていました。水彩絵の具のジンク・ホワイトは、チャイニーズ・ホワイトとして知られています。
ジンク・ホワイトの顔料の歴史は、1782年と古く、その頃に酸化亜鉛が白の顔料として提案されました。フランスのアカデミー・デ・ディジョンのガイトン・デ・モルボーが、白の顔料と、酸化亜鉛を含む原料、白色顔料として機能する可能性のある物の報告をしました。彼は、白鉛の代わりとして酸化亜鉛の提案をしました。金属亜鉛は、もともと中国と東インドから来ていましたが、ヨーロッパで亜鉛の鉱石が見つかり、金属亜鉛の抽出が大規模に生産されました。1794年と1796年に、リバプール近郊あるハリントンのイギリス人色職人、ジョン・アトキンソンに酸化亜鉛の製造に関する特許が発行されました。
ジンク・ホワイトを使う最も良い方法は、グレージングや色味を少しずつ淡くする際に最も威力を発揮します。



イリディーセント・ホワイト


イリディーセント顔料は、自動車用の絵の具を開発する化学者が、新しくユニークな色の研究をしていたことから発展し、1970年代にマイカ・チタンとして開発されました。開発当初の実験では、マイカを砕いたものを絵の具に混ぜて作っていたため、絵の具のフィルムが不安定でした。マイカ・チタンは、当初の問題をすべて解決し、耐久性に飛んだ色を産み出すことが可能になりました。初めは、マティスのメタリック・カラーのようなメタリック絵の具に使われていましたが、のちにパールのような色の開発でこの色が生まれました。そしてこの色が最もアーティストにとって有益なものとなりました。

イリディーセントは、驚くほど役に立つ色です。マティス・イリディーセント・メディウムや、パールのようなイリディーセント・ホワイトを色に混ぜることで効果を表します。自然界は輝きがあふれています。それらは、蝶や鳥の羽、光の中の水しぶき、または太陽の光そのものなど。さらに人間が作り出したものにも輝く色がたくさんあります。メタルやガラス、プラスチックなどはこの顔料を使うことでその質感を効果的に表せます、または風景画でも噴水の水の輝き、窓の反射、海辺の塩水や車や街灯の光の中での雨などと、可能性は無限になります



アンティーク・ホワイト


この色は、初めはフォーク・アートのために作られた色と言えます。彼らはオフ・ホワイトのクリームのような柔らかなこの色を好みました。そしてファイン・アーティスト達の要望にも答えています。チタン・ホワイトは、純粋に近い白で、絵で使われる白より少し白すぎる場合があります。昔の巨匠の時代はその問題はありませんでした。なぜなら、彼らは絵の具を毎日作り、弟子達に少しのオーカーを混ぜるように指示したからでした。今日では規制のチューブ絵の具を使い、純粋な白以外の選択は少なくなりました。

マティスでは、この問題を解決するためにそれぞれユニークなオフ・ホワイトを取り揃えています。マティス・アンティーク・ホワイトは、生クリームのような色で、黄色やオレンジ、暖色系の赤の混色の際に役に立つ白です。アンティーク・ホワイトは、温かみがあり昔の巨匠たちが好んだ色です。それは鉛白にアマニ油を混ぜたような色味です。巨匠たちは、この温かみのあるハイライトを人の肌に最適であると好みました。人物や温かみのある色の混色の際に、チタン・ホワイトの代わりに、このクリームのようなアンティーク・ホワイトを使うことで、現代のアクリル絵の具画家たちに柔軟性を与えます


オーストラリアン・ゴーストガム


オーストラリアン・ゴースト・ガムは、オーストラリアの雨の少ない地域によく見られるゴーストのような木の幹に見られる、柔らかな白色に合わせて作られました。多くの風景画家達は、この色を理想的なホワイトとして使います。なぜなら、自然界にある多くの明るい色は、控えめでくすみのある色です。影にたくさんの色が隠れているのと同じで、自然の白にもいろいろな色が隠れています。風景画の中での自然の色は素朴で、自己主張の高い色は稀です。オーストラリアン・ゴースト・ガムは、控えめなオーカーの色味を特徴として持っているため、風景の中の自然の色の抑えた色を作り出すのに非常に役に立ちます。
風景画用の名前を持っている色にもかかわらず、マティスのオーストライラン・ゴースト・ガムは、人物や抽象画など、あらゆるジャンルの絵画制作にも向いています。人の肌の柔らかな質感はもちろんのこと、花や織物などにも特性を発揮し、不透明で保存性の高い絵の具です。


アンブリーチ・チタン


アンブリーチ・チタンは、よくチタン・ホワイトの元の色という作り話が伝えられてきています。原料に含まれる不純物の茶色味を帯びた色を漂白したものが、チタン・ホワイトであるということですが、本当はもっともっと興味深い話なのです。それは、絵の具会社で起こった幸運のアクシデントから始まった新しい色なのです。1960年代に、ボクー社(レナード・ボクー氏は、ニューヨークでその時代の最先端の絵の具製造会社、ボクー・アーティスト・カラーを創業しました。デ・クーニングや、ヘレン・フランケンサーラー、モーリス・ルイス、ケネス・ノーランドなどの画家たちが、その絵の具を使っていた事で有名です。)で作られていたあるバッチのチタン・ホワイトに、アンバーかオーカーの色の汚染が起こったことから始まりました。
その色は、お店で売られてしまい、クレームが起こってしまったのですが、多くのアーティストたちが、チタン・ホワイトの純粋な白を求めると同時に、ナポリ・イエローに似ているが寒色側にあるこの珍しい色、アンブリーチ・チタンを求める声が多くなりました。このころ顔料の製造会社は、 チタン・ホワイトを原料として、熱処理による色々な色調の茶色や黄色の純粋ではない色を賢く導入する方法を発見していました。しかし、ほとんどの絵の具製造会社は、元祖となったボクー社のアクシデントのように、白にオーカーなどを混ぜてアンブリーチ・チタンを社内で作っていました。
アーティスト達は、このかすかに砂茶色を帯びたアンブリーチ・チタンの色が好きでした。ナポリ・イエローのように混色の際非常に扱いやすく、チタン・ホワイトの代わりに、ランドスケープや、人の肌の色を明るく、より柔らかくするのに使われました。





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