色のお話:ブルー 1
原色の一つ、ブルーのお話です。ブルーもたくさん色があるので二つに分けます。地球は青いと言いますが、赤や黄色と同様、子供の頃から慣れ親しんだ色ではないでしょうか?青い海、青い空、そして地球は青かった。しかし、青にもいろいろあります。微妙な色の偏りは混色の時にも大きな違いを出します。個性的なパレットを作るためや、本当に好きな色の混色を探すため、基本的な混色のルールを超える自分だけの何かを見つけるためなど、色や顔料のことを知って、そして、それをヒントにして、自分だけの色の組み合わせを楽しんでください。
オーストラリアン・スカイ・ブルー
マティスのオーストラリアン・スカイ・ブルーは、ウルトラマリン・ブルーとチタン・ホワイトのブレンドです。この混合をチューブで持っているのは、風景画家にとって本当に便利です。そしてこの色は、空を描き始めるのにとても使いやすい色です。ただ、この色を始めに塗ってしまうという意味ではありません。空の色は時間や季節、または日によって違います。高い空は色が濃く、水平線へ近づくにつれて薄く柔らかくなっていきます。一色でこれを表現することはできません。もちろんオーストラリアン・スカイ・ブルーもそれを考えているわけではなく、理想的なスカイ・ブルーがやらなければならないことをこなします。それは、様々な空の色のベースとして使うことで、平均的な日の空の色を描くことができます。
これまでに、本当の意味での単色顔料で、スカイ・ブルーという色はありません。19世紀まで使われたアズライトが一番近いものとされていましたが、白を使って明るくする必要がありました。セルリアン・ブルーが現代のアズライトに変わる色で、そして白と混ぜることで北ヨーロッパの空の色を表現することができます。オーストラリアの空は、違った特性を持っており、通常ウルトラマリン・ブルーがその色を表すのに近いとされています。特に夏の間や、乾燥した地域の空の色と言われています。そのため、オーストラリアン・スカイ・ブルーは、ちょうど良いオーストラリアの空の描き始めの色になります。
空を描くときには、色の変化が頭上の空の色と地平線近くの色の違いが大きいため、マティスのオープン・メディウムMM31を使うことをお勧めします。オープン・メディウムは、混ぜる量に応じて、絵の具の乾燥を遅らせることができます。そのため、ウェット・イン・ウェットのテクニックや、空の色のブレンディングが簡単にできます。空の色は常に変化し、使う色も日によって変わっていきます。光や日時などの特性によって変わってきますが、ウルトラマリン・ブルー、ミネラル・ブルー、プライマリー・ブルー、セルリアン・ブルーやコバルト・ブルーなどの色は、すべて暗い部分の空を作るのに良い色の選択と言えます。水平線近くの卵の殻のような淡い色を作るには、オーストラリアン・ゴースト・ガムやアンティーク・ホワイトなどを混ぜると柔らかな効果を表せます。ウェット・イン・ウェットの技法で、優しい色のグラデーションを作ることができ、視覚的にも喜びを与える結果が得られます。
ミネラル・ブルー
マティスのミネラル・ブルーは、岩や鉱物などに見られる柔らかいグレー・ブルーの色です。他のブルーに比べて明るさを抑えた色ですが、この巧妙な色は色々な場面で活躍できます。暗めの従兄弟、ペインズ・グレーやミッドナイト・ブルーのように、寒色系のブルー・グレー、または混色を目的とした柔らかで抑えたブルーとして使います。ルネッサンス時代のウルトラマリン・アッシュの色の使い方に似ています。その昔、ウルトラマリン・ブルーは、ラピスラズリの宝石を砕いて、科学的に灰汁を使ってブルーの色を取り出して作られていました。この工程は部分的に成功し、ラピスラズリにブルーが残ってしまうため、後2回この工程が繰り返されていました。初めの2回の工程でできたブルーを、ウルトラマリン・ブルーとして販売し、これらは、第一と第二として販売されました。第二は一回目のものよりブルーの強さが弱かったので安く売られました。3度目の工程でできたブルーは、ブルーの強さも弱く、グレーの母石と混ぜて売られました。これは強いブルーとして売られていたのではなく、ウルトラマリン・アッシュとして売られました。前の二つに比べてこの第三の顔料はとても安価で売られました。昔の巨匠は、この色を嵐の空や霧の風景に見つけ、アース・カラーとの混色でできるソフトなグレーは岩などに見られる色で、白い布の影などにも見られたため、とても使いやすい色だと発見しました。
これらのグレーや中間色は、自然界の中にとてもよく見られる色で、その色を出せる顔料はわずかしかありません。そのため、18世紀にペインズ・グレーなどが重要視され、ムードのある風景、特に雲や雨などを表見するのに使われました。ミネラル・ブルーはこの伝統を受け継いでいます。ペインズ・グレーよりも青みが高く明るい色は、南の海に見られるグレー・ブルーを思い出させます。イエロー・オキサイドと混ぜることで、ユーカリの葉などに見られるグリーン系のグレーを作ります。ミネラル・ブルーは、ムードのあるブルーで空気感を出すのに最適です。
ウルトラマリン・ブルー
ウルトラマリン・ブルーは、たびたびブルーの王様とみなされることがあり、アーティストの絵の具の中でもとても、人気のあるブルーであることは明白です。ヨーロッパで初めて登場したのはイタリアのルネッサンス時代で、おそらくベニスでアラビアのダウ船によって、魅惑的な好奇心から持ち込まれたのだろうということです。この色はこの時点で、とてもセンセーショナルであったため、ペルシャからインド、中国、そしてヨーロッパへと広がりました。金の重さとほぼ同じ料金であったこの色は、とても特別であるという評判を高くし、上流階級の貴族のみがこれらの絵を買うことができました。イタリアのアーティストたちは、ペルシャ人が船に乗って持ってきた色という事実以外は知らなかったので、「ウルトラマリン・ブルー」海外から来たブルーという意味の名前がつきました。この時代にアーティストたちは、契約の中にこの色を使うという指定がされていたりして、この顔料を使うことを強要されました。たくさんのアーティストたちは、ブルーの色の部分をもっと安いアジェライトを使って描いてから、薄いウルトラマリン・ブルーで仕上げるということを試みました。この方法は油彩が定着してきて簡単に行えるようになりましたが、その試みもヨーロッパ人がどのようにこの色を作るのかを学んだ結果、少しずつ顔料の価格も安くなっていき、必要がなくなってきました。1930年代に人工のウルトラマリン・ブルーが開発されてからは、この色の価格はオーカーと同じくらいまで下がり、使用される率が急上昇しました。
この色は暗い青色のラピスラズリという宝石用原石を砕いて作られていました 。ラピスラズリは古代より採掘されています。世界で一番古いラピスラズリの鉱山は、アフガニスタンにあり、7000年もの間採掘されています。この石は、初めの数千年の間は宝石として使われました。この頃、顔料を石から作る知識はあったと思われますが、古代のエジプト人が濃いブルーのガラスを砕いて作ったパウダーの似たようなブルーが使われていたと思われます。この方法の方が宝石用の原石、ラピスを砕くよりもはるかに安かったので必要ではありませんでした。5世紀になって、ヨーロッパと地中海の経済の崩壊の後、エジブトのブルーが手に入らなくなったと考えられ、アフガニスタンのアート作品で初めてラピスラズリの顔料が使われたとされています。しかし、この色の簡単に石を砕いた製造方法には問題がありました。とても弱く、この顔料では筆で描く品質が悪かったことに加え、とても高額になったのですが、他に濃いブルーがその時代にはなかったため、それから600年もの間、東側で使われてきました。
13世紀に入って、ペルシャで新しい方法で色を作る開発がされました。石を砕いた後に、苛性アルカリ溶液やその他の物質を使って化学的に処理されました。この方法で、石の母体であるブルーの着色剤を抽出することができました。そのため純粋なブルーで素晴らしい絵の具が作れるようになったのですが、これはその時代の優れたハイテク技術であったため、石を砕いただけよりももっと高価になってしまいました。そしてこの色がベニスからその他のヨーロッパの国々広がり、そしてインドや中国にも同じ時期に広がりました。ヨーロッパの錬金術士やアーティストによって、このウルトラマリンの色の抽出方法を発見するまでに、1世紀以上の時間がかかりました。しかし、後の入手可能な状況と使用頻度のゆっくりした向上で、価格は少し下がりました。とはいえ絵の具の中ではゴールド・リーフ(金箔)の次に高価であることに、変わりはありませんでした。
産業革命の間に初めての人工顔料が化学者によって開発されました。プルシャン・ブルーが1706年に開発されたのを皮切りにフランスの政府が1824年に人工顔料の開発者に多額の賞金をかけました。1816年にはすでにウルトラマリンのような濃いブルーは、石灰製造の際に偶然発見されたことから、科学者たちによって逆行分析のいろいろな実験が行われていました。1826年には、ジャン=バプティステ・ギメが重要な発見をしました。彼はこの方法を秘密にしておきたく、賞金ももらい工場でウルトラマリン・ブルーを製造したのですが、2年後に大学の研究者クリスティアン・グメリンによって他の方法が開発され、グメリンはそれを公表したため、ウルトラマリン・ブルーの製造にはグメリンの方法がベースになりました。
この業界はとても大きなものになりました。人工顔料はアーティストや宮殿などのデコレーションに初めは使われていたのですが、人工のウルトラマリンは、とても安くすべての顔料製造者にグメリンの方法は知れ渡っており、それによって使用方法が倍増されました。紙を作る会社で少量のブルーを混ぜることで、自然のままでは少しクリーム色になってしまう紙をもっと白くすることが可能になり、またはブルーの紙を作ることができました。洗濯用の商品やクリーニング材に使われる青味材は、ほとんどウルトラマリン・ブルーです。繊維製品も白く見せるために使われ、化粧品、特にアイシャドウ、住宅、車や飛行機などの塗料、青の屋根材の色素材は耐光性に優れていることが重要な条件でした。
人工のウルトラマリン・ブルーはラピスラズリから作られたウルトラマリンと似ているのですが、違うことを評価しなければなりません。たくさんの優れた特徴を持った色ですが、全てにおいて優れているわけではありません。たくさんの人は昔の色の方が美しいと言いますが、それらは主観的な意見でもあり、客観的な現実よりも昔の神秘的雰囲気のためにそうなっています。ラピスから作られたウルトラマリンは、もっと大きく揃っていない結晶から出来ており、それはもっと激しい暗いブルーの色を出します。それに比べて、現代のウルトラマリンは、結晶が小さく、光の反射率が高く明るい色を出します。昔の色は深い色味にバイオレット色が現代のものより少なくなります。もしも何からできているのかを伏せて、現代のアーティストに色を選んでもらうとしたら、だいたいフレンチ・ウルトラマリンが良いという答えが返ってきます。これはウルトラマリンにバイオレット色が多めの色調でアーティストに愛されています。マティス・ウルトラマリン・ブルーはこのフレンチ・ウルトラマリンのタイプです。宝石の原石ラピスラズリから作られるウルトラマリンは一色であるのに対して、人工のウルトラマリンは、ブルーからアーティストが好む緑がかったものまで多くの色調があります。グリーンとバイオレットのバージョンもあり、それらは工業的に使われており、それらの影響を及ぼす範囲は少ないのです。すでに使われなくなった色で、ウルトラマリン・イエローは、本当のウルトラマリンではなくバリウムの顔料でした。
ウルトラマリンはとても暖色系の、透明度も高いブルーで、とても働き者の色で、すべての空色から、イエロー・オキサイドとの混色でオリーブ・グリーンまで、アーティストに使われています。ウルトラマリンで作るグリーンはとても使い勝手がいいのです。何故ならウルトラマリンは、バイオレット側のブルーのため、綺麗なグリーンを作ることができませんが、私たちが日々目にする自然の緑に近い色を作るのです。そしてカドミウム・イエロー・ミディアムと混ぜると柔らかい木の葉のグリーンを作り、イエロー・オキサイドや、ロウ・シェンナと混ぜることでオリーブ系の緑を作ることができます。
寒色系の赤、マティス・ローズ・マッダーと混ぜることで、綺麗なバイオレットができ、これは耐光性においてもディオキサジン・パープルよりも優れています。その他の寒色系の赤、ブリリアント・アリザリンからマゼンタ・クイン・バイオレットなどと混ぜると、とても上品なバイオレットを作ることができます。もっと土のようなバイオレットを作るには、ベネチアン・レッドやカドミウム・レッドを混ぜることで可能になります。黒に変わるとても濃い色は、ウルトラマリン・ブルーとバーント・アンバーで作れます。このようにウルトラマリン・ブルーはとても用途が多く、アーティストたちから人気であることも理解できます。
ミッドナイト・ブルー
ミッドナイト・ブルーは、暗いブルー・ブラックでペインズ・グレーに似ています。ただし、ペインズ・グレーは、ウルトラマリン・ブルーとマーズ・ブラックで作られており、ミッドナイト・ブルーはフタロ・ブルーで混ぜられています。両者とも同じくらいの耐光性と使い勝手の良さがあるのですが、個性や色のムードは、それぞれ混色でその特徴の違いを出します。ペインズ・グレーは特徴のあるブルー・バイオレットの色味を帯びた色で、色相環のスペクトルの寒色で力を発揮します。特にブルー・グレーやバイロレット、藤色など。
ミッドナイト・ブルーは、もう少し柔軟です。この色は、特徴のあるグリーン系のブルーの色味を持っており、それは深く強いグリーンにとても良く働き、さらに矛盾するのですが、レッドやバイオレットの色範囲との働きでも輝きを出します。
ミッドナイト・ブルーは、その名の通り、インクのような夜空の特徴を出します。これはとても深いインディゴのような色で、空の色や夜の水の色がそのホームグラウンドです。もしこの色をゴッホが生きていた時代に手に入れることができたなら、彼はこの色を愛し、彼の夜の絵の中に取り入れたことでしょう。この色は、ペインズ・グレーよりも色味を持っており、そして光をたくさん吸収するので夜空のように深い暗闇を表します。ミッドナイト・ブルーに含まれるフタロシアニン・ブルーは、透明顔料なので純粋な黒の顔料に比べて光の吸収を効率的に行います。純粋な黒でないにもかかわらず、その見た目は深い暗さを表します。
そして興味深い黒を、ミッドナイト・ブルーとトランスパレント・レッド・オキサイドで作ることができます。トランスパレント・レッド・オキサイドの光の吸収の効果が、美しい透明感を出し、色を美しく暗くし、レッドが温かみを与え、木炭を思い出させます。
ミッドナイト・ブルーにマジェンタ・クゥイン・バイオレットを混ぜてみてください。結果は、この上ないほど深く暗いバイオレットで、美しいマジェンタのアンダートーンを持った色を作ります。この美しいバイオレットは、ディオキサジン・パープルよりも耐光性に強く、同じような色味をつける強さを持っています。そしてその個性はパレットで混色を行うという行為から予測ができない微妙さを踏まえています。
ミッドナイト・ブルーにビスマス・イエローやカドミウム・イエロー・ライトなどの明るいイエローを加えると、濃いグリーンのガラスの瓶のような色を作る事が出来ます。そしてアースカラーのような効果を得るにはイエロー・オキサイドやトランスパレント・イエロー・オキサイドと混ぜることで、透明、または不透明な群葉を描くのに役立ちます。
この色の強みはグレーにも出ます。ミッドナイト・ブルーにアッシュ・ピンクを混ぜるととても柔らかなグレーを作り出し、グリーン寄りからピンク寄りまで幅をもたせた柔らかさを表します。また、パーマネント・ライト・バイオレットと混ぜて作ったグレーは、ブルーから藤色にかけたグレーを作り出します。アクア・グリーン・ライトは、また違ったグリーン系のグレーを作り、そこにオーストラリアン・ゴースト・ガムを混ぜてグリーンを柔らかくし、木や葉などに見られるグレーを作り出します。チタン・ホワイトを代わりに使うと、夏の空の雲などに見られるブルー系のグレーになります。このように幅の広いグレーやブラック、グリーン、バイオレットは、ミッドナイト・ブルーをとても多才な場面で使えることを意味します。その中には、冬や夏の夜の南の海や、夜の水面、日中のオーストラリアの低木など、使える幅は広がります。ペインズ・グレーのようにこの色はアーティストにとって重要な色のチョイスとなることでしょう。
マティス・インディゴ
マティス・インディゴは、インディゴのような色ですが、自然のインディゴが持っている古い色は色あせがとても早いと言う問題はありません。100年前にイギリスの偉大な画家の手によって描かれた水彩画の風景などは、空の色がピンクやオーカーの色になっています。これは画家がその色で描いたのではなく、その当時の一般的に使われた自然のインディゴにレッドやイエロー・オーカーを混ぜて描かれていたからです。時間ととものにインディゴは色あせしてしまい、今では色は残っておらず、オーカーはその色を保持していたため空の色がオーカー色になってしまったのです。もしもその時代にマティス・インディゴがあったなら、これらの絵に描かれた空は今でも同じように青空だったことでしょう。
マティス・インディゴは暖色のため、ウルトラマリン・ブルーとの相性も非常によく、混色による影の部分や、黒に近くすることも違和感なくやってのけます。トランスパレント・ベネチアン・レッドを少し混ぜることで、色の色相を変えることなく、濃い影の部分の黒っぽい青を作ることができます。これはアーティストにとって、とても力強い味方です。
ウルトラマリン・ブルーのように、マティス・インディゴはバイオレットを作れますが、ウルトラマリン・ブルーより深く、暗く、そしてもっと力強い色になります。どの赤を混ぜるかにもよりますが、そのバイオレットの範囲は豊かで尊大なパープルから、素晴らしい深いバイオレットまでと広い範囲を持っています。マティス・ローズマッダーも、赤みのかかったパープルを作るのに役立ちますが、マジェンタ・クイン・バイオレットの方が、本来のバイオレットを作るのには向いています。この二つの色で、マジェンタのアンダートーンを持った繊細で優美なバイオレットを作り出す事が出来ます。
色の清らかさは、白を混ぜた時に、とても美しいパステルカラーになる事から明らかにされます。これらの色はディオキサジン・パープルよりも耐光性が強いため、郊外や光が当たる作品で何世紀も変わらない色を残したい場合は、一番の選択となります。
色々な実験を試みることは、特別な驚きを与えることがあります。マティス・インディゴにメタリック・カラーを混ぜることで本当のお宝を発見できます。例えば、マティス・インディゴにメタリック・コッパーを混ぜると、玉虫色に輝く鳥の羽根の色などに見られる、自然の青銅のような効果が現れます。さらに、これらの色は抽象画などの空想の世界を、特別で美しいものにすることができます。
マティス・インディゴはグリーンを作る際にも、とても素晴らしい色の選択になります。マティス・エメラルドと混ぜることで、透明なグリーンのガラスのボトルの色を作ることができ、静物画の歴史を見ても深いグリーンのガラスの瓶はとても一般的でよく見られます。
自然界の中でも、マティス・インディゴの強みが現れます。アンブリーチ・チタン・ホワイトと混ぜることで、緑がかったグレーを作ることができ、ユーカリの葉などの微妙な色に最適です。そしてロー・シェンナと混ぜて作る、暗めの緑がかったグレーは、それらの葉の影の部分の色になります。
自然のインディゴは、古代エジブトの初期の時代から18世紀まで使われ続けました。なぜなら、アーティストにとって、たとえ色あせするのがわかっていても、この暗いブルーはパレットに必要不可欠な色だったからです。今日、私たちにとって、顔料PB60(マティス・インディゴ)があることは本当に幸運なことです。他と比べると少し高価な顔料ですが、この最高の特質は十分に価値のあるものです。保存の度合いにしても、この美しい深い青色にしても、そして混色で出来るブルー、バイオレット、グリーンなどの美しさは必要不可欠な色の一つとなるでしょう。
フタロシアニン・ブルー
フタロ・ブルーは、フタロシアニンの省略名です。これは、一般に認められ、一般的に使われる顔料の名前の中では珍しい化学名です。英語名の初めに“Ph”がついていますが、これは発音されず英語では、“thalo”と発音されます。1936年に初めて販売された時には、他の名前が付いていました。それはモナストラル・ブルーで、今でもこのように呼ぶ絵の具製造会社がありますが、ほとんどの会社は化学名にもどしました。
この色は、偶然に見つけられた色です。この偶然の発見は、顔料の世界では比較的よく起こることです。一番有名な最初の合成コールタール染料の発見は、19世紀半ばで、マラリアの治療のためにキニーネを合成しようとした人が見つけました。しかし、フタロシアニン顔料は、3つの国も違うグループが、同じ時期に偶然見つけた珍しい顔料です。スイスとスコットランドで、1907年に偶然見つけられた物質は、とても強い染色効果と、とても綺麗な色であることが記録された以外は、何もされませんでした。1935年に他の研究をしていたイギリスのICIが偶然見つけた時には、のちに追跡調査が行われ、その時代の耐光性に最も優れた有機色素であることがわかりました。それから1年以内に織物用の染料や工業用やアーティストに使われる顔料ができました。フタロシアニン・ブルーやグリーンの主要産業を考えるとスイスとスコットランドは 、この濃いブルーの不純物に興味を示さなかったことで、重要なチャンスを逃してしまいました。
これは、深い緑がかったブルーで並外れた強さを持っていました。今市場に出ているフタロシアニンは、すべて実際の濃度ではありません。なぜなら、一滴混ぜるだけで他の色を圧倒させてしまうからです。この色を扱い易くするために適切な量の増量剤が製造段階で混ぜられて、この色の強さを弱めています。増量剤などの不純物の添加なしではこの色は使うことができません。この大量に増量剤を添加した状態の絵の具チューブでも、パレットの中ではとても強い色の分類の一つで、抑え気味で使わなければ、色を作る際に簡単に入れ過ぎてしまいます。
フタロシアニン・ブルーは、アーティストにとって必要不可欠な基準の濃いブルーです。20世紀初めから中頃の粗末な製品基準が、プルシャン・ブルーの不同の性質の評判をあげました。アクリル絵の具の中では、何年もの間フタロ・ブルーが唯一の選択でした。なぜなら、初期のプルシャン・ブルーは、アクリルの乳剤の中でとても不安定になったからです。とはいえ、プルシャン・ブルーの製造テクノロジーの発達で、顔料が安定性や品質ともに信頼できるようになったため、アクリル絵の具として存続し、この二つの色は非常に相補う存在となりました。プルシャン・ブルーは、より不透明で、フタロ・ブルーのようにグリーン寄りの顔料ではないことなど、様々な状況の中でそれぞれ違った利点を持っています。フタロ・ブルーのすばらしい透明度と混じり気のなさを持つ色は、宝石のような質の良い顔料であると言えます。これはブルーやグリーンの色のガラスや、水やその他の透明または半透明な物質の表現に申し分のないブルーです。
この色は、チューブから出したそのままの色で使われることはあまりありません。それは自然界に存在しない色だからです。ただこのユニークな色はアーティストにとってとても使いやすい色なのです。なぜなら、混色で作られる色は他では真似のできない色があるからです。
それはありとあらゆる緑を作る際に、特に貴重なのです。フッカーズ・グリーンはアーティストが特に役立つ色と感じており、それはチューブで買うこともできますが、フタロ・ブルーを使って混ぜられた色には、もっと個性があります。そして、それを作るには二通りの方法があります。フタロ・ブルーとオーレオリン・イエローを混ぜると少し明るいバージョンが出来、フタロ・ブルーとトランスパレント・イエロー・オキサイドを混ぜるともっと暗く強い色になります。この三つの顔料の透明度は、よく似た美しい暗めのグリーン、原型のフッカーズ・グリーンを作ることができます。原型のフッカーズ・グリーンは雌黄(しおう)が使われており色あせがありました。現代のこの代替の混色はとても永久性があります。
不透明の顔料や明るいイエローを使うことで、とても違ったグリーンが作れます。カドミウムグリーンは、フタロ・ブルーとカドミウム・イエロー・ライトや、カドミウム・イエロー・ミディアムを混ぜることで、模倣することができます。これらのグリーンはとても明るく、自然界で見られる緑よりもかなり明るい色になりますが、人工的に作られたもの、例えば、陶器、車や住宅、または洋服などに見つけることができる色です。自然なオリーブ・グリーンは、フタロ・ブルーとイソ・イエローを混ぜることで、そして、もっと暗いグリーンは、カドミウム・オレンジをイソ・イエローの代わりに混ぜることで作れます。
空はとても変わりやすい色ですが、フタロ・ブルーとオーストラリアン・スカイ・ブルーを混ぜることで、完璧なブルーが作れます。これらのブルーは、特に暑い真夏日の海面などの水面を描くときに、必要になったりします。その他には、海の奥深くや空の夕暮れ時の明るいグリーン・ブルーにも役立ちます。これらの色はオーストラリアン・ゴースト・ガムと混ぜることで簡単に作れます。フタロ・ブルーの美しさと繊細さは、混色を楽しむためにも価値があり、出来上がった、たくさんのグリーンやブルー混合色の輝きに驚かされることでしょう。
プライマリー・ブルー
プライマリー・ブルーは、アーティストにとって驚きの色です。プライマリー・イエローやプライマリー・レッドは、3色から5色の混色方法で働くように作られており、プライマリー・ブルーはその中で求められる仕事を完璧にこなします。プライマリー・イエローとレッドは、従来の混色の筋書き通りのカラーチャートの顔料に近い位置を占めていますので、孤立した特徴のある色とは言えませんが、プライマリー・ブルーは、アーティストにとって幅の広いテクニックで使えるとてもユニークな色になります。
この役柄は、三原色について調べなければその存在の理由はわかりません。アーティストたちが使う色名、イエローやレッド、ブルーはそれぞれの顔料により色味が違うため、平等に良い混色ができるわけではありません。例えば、ウルトラマリン・ブルーは、赤みを含んだブルーのため、明るいグリーンを作りませんが、バイオレットを作るのには向いています。黄金のイエローは、同じように明るいグリーンを作るのには向いていませんが、オレンジを作るのには向いています。ただし、色がそのスペクトルの色の真ん中、例えばイエローが、緑よりでも赤よりでもないものは、幅の広い色を作り出すことができるということです。スペクトルの真ん中のイエローは、良いグリーンも良いオレンジも作るということです。そしてスペクトルの真ん中のレッドは、オレンジもバイオレットも作り出し、真ん中のブルーはグリーンもバイオレットも作り出すということになります。これは黒を加えられた4色印刷の基本になります。4色印刷では、白色は紙の白が使われています。アクリル絵の具で同じような方法を取る場合、ホワイトを加えなければなりません。何故ならアクリル絵の具は通常、印刷よりも厚みを帯びるからです。長年印刷用インクには、フタロ・ブルーに薄め液を混ぜて明るくしたものをシアンと呼んで使っていました。マティスでは、絵の具の特性を守るためにこの方法を避け、透明度が高くなりすぎないように、正しい色味のフタロ・ブルーの顔料とホワイトを混ぜてシアンのような色を作り出しました。
混色によって、その他の原色を混ぜることでこれらの色の強い可能性を見ることができます。これらの色を使うことで、使う絵の具を5色とシンプルにしながら、幅の広い色を作ることが可能になります。プライマリー・ブルーにプライマリー・イエローを混ぜて明るく美しいグリーンを作り出し、プライマリー・ブルーにプライマリー・レッドを混ぜることで、感嘆の声が上がるような美しいバイオレットを作り出します。この三原色とブラック、ホワイトを使うことで、先生が、色彩論を生徒に実践で見せながら説明することを可能にします。とてもシンプルですが、クラスでどれだけのことが可能であるかを勉強するのにとても役に立ちます。
プライマリー・ブルーは、他の原色がなくてもその実力を発揮します。風景画家のアーティストは、すぐにそれを発見できるでしょう。例えば、オーストラリアン・スカイブルーと混ぜて素晴らしい空色を作り出します。そして、海の色を作る時にもこの色は役に立ちます。熱帯地方の海、特にグレートバリアリーフやクイーンズランド州北側の珊瑚のある海、またはインド洋、例えばイルカがやってくるモンキーマイヤーや、カリブ海、ティモールの海など、これらはすべて美しいターコイズの色を持った海です。これらは、ウィンスロー・ホーマーの水彩画バミューダなどに見られる効果です。ターコイズ色はプライマリー・ブルーにコバルト・ティールを混ぜて作ります。もっとグリーン寄りのターコイズを作る場合は、アクア・グリーン・ライトを混ぜます。これらの色は宝石のターコイズのようにとても繊細で優美な色です。
プライマリー・ブルーに、アース・カラーを混ぜるとまた違った驚きに遭遇します。トランスパレント・イエロー・オキサイドと、プライマリー・ブルーを混ぜるととても幅の広いグリーンを作り出し、瓶のグリーンから透明感のある落ち着きのあるオリーブや葉のグリーンを作ります。トランスパレント・レッド・オキサイドとプライマリー・ブルーを混ぜると、とてもリッチで温かみがあるにもかかわらず、グリーン寄りで、オーカーのアンダートーンを持つブラックを作ります。プライマリー・ブルーは、驚きをたくさん秘めた素晴らしい色です。
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