色のお話(オレンジ)
オレンジ:赤に向かって〜
オレンジは黄色と赤に挟まれたエネルギーと熱を感じます。オレンジには季節の変化、温かな血の通っている人、自然の見せるとんでもない色や、自然の虫や花など、いろいろなところで見られますね。なんだか中からふつふつとエネルギーが湧いてくるような、元気をもらえる色だと思います。
オーストラリアン・サーモンガム
オーストラリアン・サーモンガムは 、オーストラリアの奥地にある典型的な特定の木の種類の色です。サーモン・ガムという名前はそのサーモンのような色の幹から由来しています。たくさんの伝統的なアーティスト・カラー(専門家用絵の具)は、ヨーロッパの歴史とともに成長して、それらの風景画に適合されるように発展していきました。私たちにはオーカーが使えるので、黄土を使いません。オーカーは、肌の色を作るのにも必要とされます。
カドミウム・オレンジが存在するのは、化学者がそれをいいアイディアと考えたからではなく、この色が求められたからこそ、この色を作るために化学者は時間をかけて開発したのです。これと同じような状況が、オーストラリアの風景画家のために起こりました。ヨーロッパやノースアメリカのような濃厚な緑とは違い、オーストラリアの風景はユーカリの木がほとんどを占めており、その木々はグレーっぽい葉と幹からなっています。樹皮がはがれたところの色は白からサーモン色で、他では見ることのできない独特な色を見せます。オーストラリアの中ほどの砂漠は、このサーモン色で、ノース・クイーンズランドでは、長めの草が夏になるとサーモン色を帯びます。
アーティスト達がこの色を待ち望んでいることに答えて、マティスではアーティスト達にテストをしてもらいながら、この色の開発を進めました。とても淡いオレンジにパステルのような柔らかさ、不透明で風景画家達の必要性を満たす色になりました。ここで興味深いのは、アーティストは創造性や想像力が素晴らしいので、この色の発売以降、風景画だけに留まらず、その他たくさんのテクニックに使われています。この色は、大胆な色である反面ソフトでもあり「フォーヴィスム」のアーティスト達が使ったと思われる色です。ピカソのローズ時代にも簡単に発見できる色です。
カドミウム・オレンジ
多くのアーティストにとって、カドミウム・オレンジは、美しく綺麗で純粋なオレンジ色の完璧なオレンジです。この色のカバー力は素晴らしく、アクリル絵の具として使われると完全な耐光性を持っています。カドミウム・イエローは1817年に製造されましたが、カドミウム・オレンジとカドミウム・レッドは、数十年後まで開発されませんでした。そして商品化して紹介されたのは、第一次世界大戦後になります。純粋なカドミウム・レッドを得るためには、硫黄の代わりに、セレニウムを使って、カドミウム・セレン化物を作ります。実際には、カドミウムを含むレッドには、カドミウム・セレン化物とカドミウム・硫化物が混合されています。そして、カドミウム・オレンジには、硫化物の方がセレン化物より多く含まれており、この美しいオレンジの色を作り出すことが出来ます。
カドミウム・オレンジのそのリッチで温かみのある色は、アーティストにとても好かれています。混色でこの綺麗で鮮明なオレンジを作ることはできません。カドミウム・イエローとカドミウム・レッドを混ぜたオレンジとカドミウム・オレンジを比べたとしても、混色オレンジのくすみは簡単に気が付く事ができます。オレンジはブルーの補色で、この2色を混ぜる事で様々な範囲の中間色を作る事ができます。特定のオレンジと、特定のブルーを選ぶ事で、広範囲の中間色が作れます。カドミウム・オレンジにウルトラマリンやコバルト・ブルーを混ぜると、暗めの混色が出来、神秘的な性質を持っていたとしても、カドミウム・オレンジは、セルリアン・ブルーと混ぜる事で、とても美しく柔らかい中間色を作ります。なぜならこの2色は、それぞれの色範囲の中では比較的に淡い色の顔料だからです。カドミウム・オレンジをそのまま、またはブルーとの混色で作られる色には、 熱を表した炎のオレンジや灰のやわらかなグレー、その下にある黒焦げになった木の色など、非常に魅惑的な色です。
マティス・オレンジ・DPP
このゴージャスなオレンジは、アーティストのパレットにとても嬉しい追加になります。長い間、カドミウム・オレンジのみが保存性の高い不透明なオレンジとして入手可能でしたが、カドミウムの健康面の問題から、それに代わるオレンジは、透明なオレンジか毒性のあるクローム・オレンジしかありませんでした。屋外の日光の強さは400倍ともいわれるため、耐光性の高さが最も求められる車産業でも、この選択の少なさは非常に重要な問題でした。
車の色で10年色褪せしない色は、絵画用絵の具としては1000年も色の変色をせずに保てることと同じになります。顔料でこのような保存度のあるものは非常にまれで、1990年代にピロール顔料が入手可能になった際には、アーティスト用の絵の具として作られることは、必然的なことでした。この顔料は暗いクリムゾンから美しいオレンジまでの幅をカバー出来ました。不透明または半不透明であるこの顔料は耐光性もカドミウムよりも高く、より明るく強い色です。
ピロール顔料をアーティスト用の絵の具として使うことは、まだ新しいことですが、この顔料グループは10年も古くから自然の生物としての形態で医薬品として使われていました。ピロール顔料は、自然顔料として胆汁や赤血球に現れます。人工のピロールはこれらの生物学ピロールを出発点として作られました。
マティス・オレンジ・DPPは、ピロール顔料の最高の特性を持っています。とても深く、カドミウム・オレンジより少し赤みがあるオレンジです。そして不透明で綺麗な明るい色は、高い耐光性を薄塗りでも発揮します。健康面を考えて、カドミウムを避けるのであれば、この色は最も耐光性が高い選択と言えるでしょう。ピロール顔料はお子様と一緒に使っても安全な環境を作り出せます。
パーマネント・オレンジ
この人気のオレンジ色は、ヴァーミリオン(アゾ)とイエロー・ミッド・アゾを混ぜたものです。顔料オレンジ36は、赤みを持っており混色の際にとても幅の広い色作りをします。そして、耐候性を高くするなどその色に良い特性も加えます。この特性は屋外の壁画に向いており、無害であるということから、子供達の遊び場の壁の壁画にも向いています。
これは製造会社で絵の具を作る際にも助かることです。ヴァーミリオンは、混色がとてもしやすい色で、幅の広い赤からオレンジを作り出し、赤やオレンジの車の色に使われました。車で人気の色などは、屋外の光や環境に10年は色あせしない為、屋内では500年も色あせしないということになります。
パーマネント・オレンジは、グラフィック、抽象画、または風景画と幅広く使えます。すべてのオレンジはブルーの補色です。明るいオレンジは明るいブルーと混ぜて明るめのグレーが作れます。もっと強いパーマネント・オレンジは、セルリアン・ブルーと混ぜることで、喜ばれる結果が得られます。ウルトラマリン・ブルーなどで、暗めのグレーを作ることもできます。パーマネント・オレンジは、グレーを作るのに長けているのはもちろんのこと、アースカラーに混ぜてオレンジが生きた色を作ることもできます。オーストラリアの乾燥地帯には、とても強い赤やオレンジの色のオーカーがあり、アースカラーにパーマネント・オレンジを加えることで眩しい色が作れます.
ヴァーミリオン(アゾ)
ヴァーミリオン(アゾ)は、赤みがかったオレンジで、室内郊外ともに耐久性の高い顔料、オレンジ36が入っています。この色は、質が良いので、自動車産業で最も使われている色の一つとして成功しています。キナクリドン・レッドと混ぜて、ファイヤー・エンジン・レッドなどの明るい赤の範囲が作り出されています。
色の改良のための修正の他にアゾ・オレンジは、不透明度、優れた耐水性、極めて良い流動的特徴、そして絵の具の価格の低さがあります。この魅力的な特徴は、車、印刷インク、プラスチック製品、アーティスト・カラーなどの多くの産業で受け入れられました。これは、最も耐光性に優れたモノアゾ顔料で、耐光性の度合いはカドミウムに匹敵しつつ、カドミウムのように高価ではなく、カドミウムの使用による健康への問題もありません。ヴァーミリオン(アゾ)は、無害であると見なされています。
色の名前は、古典派の巨匠達が使っていた、今では使われていない色から来ています。多くの人は、カドミウム・レッドと同じと思っていますが、ほとんどの場合ヴァーミリオン(アゾ)は、最高品質のチャイニーズ・バージョンや、比較的にもう少しオレンジよりな、ヨーロッパの絵の具製造会社のバージョンのカドミウム・レッドよりオレンジ・レッドです。オリジナルのヴァーミリオンは、多くの問題を抱えていたために、カドミウム・レッドが出てきた段階で使われることがなくなりました。理由として、まず初めにあげられるのは、水銀を含むため毒性があるということでした。さらに信頼性に欠ける問題がありました。一般的にこの色は持続性に富んでいたのですが、これは、この頃の巨匠たちの作品に使われていたヴァーミリオン・レッドが証明しています。しかし、もし製造段階で最高の仕様で作られていなかった場合は、この赤が絵の中で黒に変色してしまったのです。巨匠たちは、弟子に二倍、三倍の時間をかけさせてヴァーミリオンを製粉させ、持続性のある良い赤を作らせていたという評判があります。
ヴァーミリオン(アゾ)は、深いレッド・オレンジとして使われています。無害であるヴァーミリオン(アゾ)は、子供の遊び場の壁画などにも自信を持って使うことができます。他のオレンジ系の色のように、ブルーと混ぜることで感じの良いグレーを作ったり、ランドスケープでは、オーカーと混ぜてオレンジ色を強めたり、ブルーやバイオレットと混ぜて、岩などの陰から光の当たっている部分への移り変わる色を作ることができます。ヴァーミリオンは、他のオレンジ系のオーカーよりも、価格が手頃であるというのも予算的に助かる一面です。
カドミウム・オレンジ・ディープ
カドミウム・オレンジ・ディープは、カドミウム・レッドとカドミウム・オレンジの混合です。カドミウム・レッドとオレンジは90年もの間アーティストに使われている色で、この90年の間に赤とオレンジの色範囲の中で、高い基準の色の選択と信頼されるようになりました。この価値のある信頼は、 本物のヴァーミリオンのみが保存性に対して競い合うことができたのですが、ヴァーミリオンは毒性が高いことと、さらに当初の他の有機顔料は、保存性が高くなかったことに起因しています。今日の有機顔料は、キナクリドンが保存性に関してはカドミウムに対抗できる顔料であることと、ピロールも良いのですが、ほんの少しの差でカドミウムが未だに王座の位置を所持しています。
なぜそうなっているのかを考えることは、非常に興味深いことです。これはいろいろな顔料がひとつの領域に達したとしても、その他の領域で問題を持っているからです。例えば、ピロール顔料は、とても保存性に高い顔料で、明るく綺麗な色を出しますが、不透明度に関しては、カドミウムに劣ります。そして少し高価な色になります。結果、カドミウムがレッドとオレンジの中で、アーティストにとってとてもバランスが良く、安定のある顔料ということで、優勝者となっています。
カドミウム・オレンジ・ディープは、とてもリッチで赤みがかった素晴らしい色です。オレンジという色は、アーティストの使う色の中であまり賞賛されていない色です。多くのアーティストは、どれくらい使っているかに気がつきません。何故なら、バーント・シェンナをオレンジとは思わずに使っているからです。すべてのブラウンは暗いオレンジなのです。ブルーにバーント・シェンナを含むあらゆるオレンジを混ぜることで、とても自然で心地の良いグレーを作り出します。理論的に、補色同士の色を混ぜると同じようなグレーまたは中間色を作り出します。
実践では、バイオレットとイエロー、レッドとグリーン、が作る中間色は、オレンジとブルーが作り出す中間色よりも面白みに欠けています。ブラウンや明るいオレンジを含む幅の広いオレンジと、たくさんのブルーの色味や透明度、不透明度の選択肢はアーティストにとって、風景や人物問わず幅の広い中間色を作り出すことのできるコンビだと言えます。肌の色を作る際には、カドミウム・オレンジ・ディープが持つ赤みのため、肌に現れるサーモン色を作り出すことを可能にします。
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